第294首 紐ほどく夜
ゆめにだに みえんとわれは ほどけども あいしおもわねば うべみえずあらん
(大伴家持)
この頃会えない君に、せめて夢の中でも会いたいなって、
恋人が夢に現れるっていうおまじない、寝具の紐をわざとゆるめて寝てみた。
でも、意味は無かった。
よく考えたら、僕だけが君を想っているんだから、
夢でさえ君に会えないのは当たり前のことなんだろうなぁ。
【ちょこっと古語解説】
〇夢にだに…… 「せめて夢だけでも」という意味。「だに」は「〜だけでも」という「限定」の意を表す語。
〇見えむ……「見え」の元の形は「見ゆ」で「会う」。「む」は「~だろう」という推量の語。
〇ほどけども……「(寝具の紐などを)解いて寝たけれど」という意味。当時の俗信として、恋しい人に会いたい時や、相手が自分を思っている証として紐が自然に解けると考えられていた。ここでは、その俗信にすがって「紐を解く」という行動をとったことを示している。
〇相し……「相」は「互いに」という意味。「し」は強調のために置かれている語で、訳には表れない。
〇うべ……「なるほど」「もっともだ」と納得する気持ちを表す語。
夢にだに見えむと吾はほどけども相し思はねばうべ見えずあらむ
(万葉集4-772)




