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第290首 はやる想い
いましらす くにのみやこに いもにあわず ひさしくなりぬ ゆきてはやみな
(大伴家持)
今この国の都となっている恭仁京。
この都にいるわたしは、あなたに会わないで年月が過ぎてしまった。
今頃あなたは何をしているのか。
帰って早くあなたに会いたいものだ。
【ちょこっと古語解説】
〇知らす……「知る」+「す」。「知る」は統治するという意味で、「す」は尊敬の助動詞。全体で「統治なさる」ほどの訳。誰が統治しているのかは分かり切った話(時の帝)なので(あるいは和歌には音数の制限があるからか)書いていない。
〇久邇の京……恭仁京。奈良時代、聖武天皇が一時都とした地。現在の京都府木津川市加茂地区。
〇妹……男性から見て親しい女性を呼ぶ語。
〇見な……「な」は希望を表す終助詞。会いたい、ほどの訳。
今知らす久邇の京に妹に逢わず久しくなりぬ行きて早見な
(万葉集4-768)




