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第29首 もれた秘密
わびぬれば いまはたおなじ なにわなる みをつくしても あわんとぞおもう
(元良親王)
ぼくたちの関係は人の知るところとなった。
ぼくは航路標識を失った船のよう。
どこに向かえばいいのか、どうしていいのか分からない。
こうなったら今はもう同じことか。
この身がどうなってもかまやしない。
ただきみにもう一度会えるなら。
【ちょこっと古語解説】
○わび……元の形(=辞書で引くときの形)は「わぶ」で、「つらい」の意。
○はた……「また」の意。
○難波……現在の大阪市やその周辺の古称。
○みをつくし……この語は、「身を尽くし」と「澪標」の二つの意味を表している。「身を尽くし」の方は、この身がどうなってもいいので、くらいの意である。「澪標」って、なに? という話になるが、これは、船の航行の目印に立てられた杭のこと。
○む……「~しよう」という意志を表す。
わびぬれば今はた同じ難波なるみをつくしても逢はむとぞ思ふ
(後撰和歌集/恋5-961)




