第278首 恋心なかば
おもいたえ わびにしものを なかなかに なにかくるしく あいみそめけん
(大伴家持)
あなたへの思いを断ち切って、ひっそりとわびしく暮らしてきた。
そのはずだった。
それなのに耐えきれず、とはいえ覚悟も持たぬまま。
こんな中途半端な気持ちで苦しいのに、どうして、あなたに会い始めてしまったのだろう。
【ちょこっと古語解説】
〇わびにしものを……「わび(=元の形は『わぶ』で、『わびしく暮らす』)」+「に(=完了を表す助動詞『ぬ』)」+「し(=過去を表す助動詞『き』)」+「ものを(=接続助詞『~だけれども』)」で、全体で「わびしく暮らしてきたのに」ほどの訳。
〇中々に……元の形(=辞書で引くときの形)は「なかなかなり」で、中途半端である意。
〇逢ひ見そめけむ……「逢ひ(=元の形は『あふ』で、単に会うだけではなく会って一晩過ごすことまで含む)+見そめ(=元の形は『見そむ』で、『初めて契りを結ぶ』)+「けむ(=過去推量を表す助動詞『~だっただろう』)」で、「会い始めてしまったのだろう」ほどの訳。
おもひ絶えわびにしものを中々になにか苦しく逢ひ見そめけむ
(万葉集4-750)




