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第268首 恋に耐えず
よのなかの くるしきものに ありけらし こいにあえずて しぬべきおもえば
(坂上大嬢)
この世の中で、恋ほど苦しいものはありません。
そんなことを言ったら大げさでしょうか。
いいえ、大げさではありません。
なにせ、恋しさに耐えられないで死にそうな思いをしているのですから。
【ちょこっと古語解説】
○ありけらし……「あり」は「ある」で、「けらし」は「~だったらしい」くらいの意味。全体で、「あったらしい」ほどの訳。
○あへず……「耐えられない」の意。
○死ぬべき……「べき」は、元の形(=辞書で引くときの形)は「べし」で、「当然に~になる」という意味を表わす助動詞。「死ぬことになる」「死ぬはずの」くらいの意味。
○おもへば……「~ば」は、「~すると」くらいの意味で、「~ならば」の意味ではないので注意。全体で、「思うと」ほどの訳。
世間の苦しきものにありけらし恋にあへずて死ぬべきおもへば
(万葉集4-738)




