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第264首 いっそ玉に
わがおもひ かくてあらずは たまにもが まこともいもが てにまかれむを
(大伴宿祢家持)
ぼくがきみのことを恋い慕うこの思い。
この気持ちがこんなにも辛いものなら、人であることをやめて、いっそ宝石にでもなりたい。
そうしたら、辛い思いをすることもなく、きみの手に巻かれて、ずっと一緒にいることができるのだが。
【ちょこっと古語解説】
○かくてあらずは……「このようになるなら、かえって」くらいの意味。
○玉……球状の宝石のこと。
○もが……願望を表す助詞。「~であったらなあ」くらいの意味。
○まことも……本当であること。
○巻かれむを……「れ」は、元の形は「る」で、受身を表す助動詞。「む」は、意思を表す助動詞。「を」は、詠嘆を表している。全体で、「巻かれようものを」ほどの訳。
【ちょこっと背景解説】
この歌は、第259首(万葉集4-729)への返歌である。返歌とは、ある歌への返事としての歌のこと。
わがおもひかくてあらずは玉にもがまことも妹が手に巻かれむを
(万葉集4-734)




