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第258首 無人の国へ
ひともなき くにもあらぬか わぎもこと たずさいゆきて たぐいておらん
(大伴宿祢家持)
人の多い、しがらみの多い世の中に生きていると、つい考えてしまう。
人がいない国はないのだろうか。
もしも、そんな国があれば、あなたと二人連れだって、
そこで、ずっと二人だけで寄り添っていたいのに。
【ちょこっと古語解説】
○人……恋の和歌では、愛する人のことを指すことが多いが、ここは、普通に「人」の意。
○有らぬか……「有ら」+「ぬ」+「か」で、「有ら」は「有り」、「ぬ」は打消の「ず」、「か」は疑問、全体で、「ないのか」ほどの訳。
○吾妹子……男性が女性のことを親しみを込めて呼ぶ語。
○副ひ……元の形は、「副ふ」で、寄り添うこと。
○座らむ……「座ら」は、「座る」で、「一つの所にじっとしていること」をいう。「む」は意志を表し、打消「~ない」を表しているわけではないので注意。
人も無なき國も有らぬか吾妹子と携ひ行きて副ひて座らむ
(万葉集4-728)




