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第256首 鴨に寄せて
よそにいて こいつつあらずは きみがいえの いけにすむという かもにあらましを
(大伴坂上郎女)
あなたのことが恋しい。
離れているだけ、いっそう恋しく思われて。
こんなことなら、わたしは、あなたのお住まいの池に住む鴨になりたい。
そうすれば、あなたを毎日見ることができるし、あなたからも毎日見てもらえるから。
【ちょこっと古語解説】
○恋ひつつあらずは……「ずは」は、前に来ている行為や状態が既に成立していて、それが話者にとって苦しく耐えがたくなっている状態を表わす。「つつ」は、「動作の継続」を表わし、「~し続ける」の意。全体で、「苦しい思いをして恋い慕い続けるくらいなら」ほどの訳。
○鴨にあらましを……「まし」は「反実仮想」を表わし、「もし~であったら」の意。「を」は詠嘆。全体で、「鴨であったらいいのに」くらいの訳。
外に居て恋ひつつあらずは君が家の池に住むといふ鴨にあらましを
(万葉集4-726)




