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第253首 恋心知らず
むらきもの こころくだけて かくばかり わがこうらくを しらずかあるらん
(大伴宿祢家持)
この心も砕けそうだ。
あなたのことを思うと。
わたしがこれほどあなたのことを恋い慕っているということを、
あなたは知らないのではないだろうか。
【ちょこっと古語解説】
○むらきもの…「心」を導く枕詞。枕詞とは、ある語を導くために、その語の前に置かれる語のことであり、訳には表れない。
○かくばかり……これほど、の意。
○恋ふらくを……「恋ふ」は、恋をするということ。「恋ふらく」は、「恋ふるあく」が、つづまったもの。「恋ふる」は、「恋ふ」の変化した形であり、「あく」は、「~すること」の意を添える語。全体として、「恋をすること」ほどの意味。
○知らずかあるらむ……「ず」は打消を表わす助動詞で、「~ない」ほどの訳。「か」は疑問を表す語。「らむ」は現在の推量を表す語で、「~しているだろう」ほどの訳。全体で、「知らないでいるのだろうか」くらいの意。
むらきもの心砕けてかくばかり我が恋ふらくを知らずかあるらむ
(万葉集4-720)




