241/297
第240首 乾かない袖
わがせこが あいみしそのひ きょうまでに わがころもでは ふるときもなし
(巫部麻蘇娘子)
わたしの愛するあなた。
あなたと最後に夜を過ごしたあの日。
その日以来今日まで、わたしの衣の袖は乾いたことがありません。
あなたを思う涙でいつも濡れているのです。
【ちょこっと古語解説】
○背子……女性が男性を愛おしんで言う言葉。愛しいあなた、くらいの意味。
○相見し……「相見」は元の形は、「相見る」で、互いに見ること。ただし「見る」というのは、単に相手を視界に収めることではなくて、その視界に収めた相手と夜を過ごすことまで言うこともある。「し」は、元の形は「き」で、過去を表す助動詞。
○衣手……袖のこと。
我が背子が相見しその日今日までに我が衣手は乾る時もなし
(万葉集7-703)




