第239首 思い出の月
ぬばたまの そのよのつくよ きょうまでに われはわすれず まなくしおもえば
(河内百枝娘子)
あなたにお会いしたあの夜、あなたの腕の中で月を見上げました。
それはもう随分と昔のことになりますが、今日まで忘れたことはありません。
あなたにお会いしてから、あなたのことを思わないときがありませんもの。
【ちょこっと古語解説】
○ぬばたまの……「暗黒」に関連する語を導く、枕詞。枕詞とは、それ自体に意味は無く、ある特定の語群を導くための言葉のこと。
○月夜……ここでは、「月」そのもののこと。「月の明るい夜」という意味にもなる。
○間なくし思へば……「間なく」とは、絶え間ないこと。「し」は、強調を表す語で、訳には現われない。現代でも使われている慣用句で、「生きとし生けるもの」という言い方があるが、そこに使われている「し」は、この強調の「し」。「思へ」は、元の形は「思ふ」であり、単に何かの考えを心に抱くという意ではなく、「愛する」や「心配する」という意味がある。「ば」は、「~すると」ほどの意で、「~したら」という仮定の意味ではないので、注意。
ぬばたまのその夜よの月夜今日までに吾は忘れず間なくし思へば
(万葉集4-702)




