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第228首 嘗てない恋
おみなえし さきさわにおうる はなかつみ かつてもしらぬ こいもするかも
(中臣郎女)
山野にはおみなえしが、沢には花かつみが咲いている。
その風景にわたしは見惚れた。
世界がこれほど美しかったなんて。
これは恋のおかげ。
世界を輝かせるかつてない恋。
【ちょこっと古語解説】
○をみなへし……花の名、日当たりのよい山野に生える。おみなえしは咲く、その「咲く」の変化形である「咲き」を使って、同じ音を持つ佐紀沢を導いている。沢は低湿地を表しており、おみなえしは山野に咲くので、「おみなえしが咲く佐紀沢」と解釈することは難しい。
○佐紀沢……現在の奈良市水上池のあたりか。
○花かつみ……水辺に生える草の名。野生のハナショウブの一種か。「かつ」の部分を使って、同音を持つ「かつて」を導いている。
○かも……詠嘆を表す語。「~だなあ」くらいの訳。「~かもしれない」と言っているわけではないので注意。
をみなへし佐紀沢に生ふる花かつみかつても知らぬ恋もするかも(万葉集4-675)




