第224首 翻意の早さ
おもわじと いいてしものを はねずいろの うつろいやすき わがこころかも
(坂上郎女)
あの人のことをもう想わないようにしよう、報われない恋だから。
そう誓ったけれど、すぐに心変わり、どうしてもあの人のことを想ってしまう。
まるではねずで染めた色みたい。
その色がすぐにあせてしまうように、わたしの決心もすぐにひるがえってしまう。
【ちょこっと古語解説】
○思はじ……「思は」は、元の形は「思ふ」で、単に心に浮かべるということではなく、恋しく思うこと。「じ」は打消の意志を表す助動詞で、「~しないようにしよう」という意味。全体で、「恋しく思わないようにしよう」くらいの訳。
○てし……「て」は、元の形は「つ」で完了を表す助動詞。「し」は、元の形は「き」で過去を表す助動詞。過去のある時に、何かが完了したことを表す。
○ものを……逆接を表す語。「~だけれども」の意。
○はねず色の……はねず(=初夏に赤い花をつける植物)で染めた色があせやすいところから、「移ろひやすし」を導く。このようにある語を導くための語のことを、枕詞という。
○かも……詠嘆を表す語。「~だなあ」くらいの訳。
思はじと言いてしものをはねず色のうつろひやすき我が心かも(万葉集4-657)




