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第214首 恋に駆られ
きみにこい いたもすべなみ ならやまの こまつがしたに たちなげくかも
(笠郎女)
あなたのことが恋しい。
この気持ちがあふれてどうすることもできません。
恋しさを抱いてふらふらとあなたのお住まいが見える奈良山へと。
わけもなく松の木陰に立ってはあなたのお帰りを待ってためいきをつくばかりです。
【ちょこっと古語解説】
○いたも……全くの意。
○すべなみ……「すべな」が「すべなし」で、「どうしようもない」という意であり、「み」は「~なので」の意であるので、全体で「どうしようもないので」くらいの訳。
○奈良山……今の奈良市の北方の丘陵。
○小松が…「小松」は「松」のことであり、「が」は「の」を表すので、全体で「松の」くらいの意。木の中でなぜ特に松なのか、あなたを「待つ」という意を込めているからである。
○かも……詠嘆を表す語。「~だなあ」ほどの訳。
君に恋ひいたもすべなみ奈良山の小松が下に立ち嘆くかも(万葉集4-593)




