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第209首 恋のさざ波
ちどりなく さほのかわせの さざれなみ やむときもなし あがこうらくは
(坂上郎女)
水辺で千鳥が鳴いている。
この佐保川を隔てて、あなたがいる。
そっちの方にさざ波が寄せるのが見えるかな。
波がやまないのは、わたしがあなたを恋い慕っているからよ。
【ちょこっと古語解説】
○千鳥……鳥の名。川・海・湖沼の水辺に群れをなしてすむ。
○佐保の川瀬……佐保川の川瀬。佐保川は、今の奈良市の春日山に源を発し、佐保の南側を流れ、初瀬川と合流して大和川に注ぐ川。川瀬は、川の流れが浅く速くなっているところ。
○さざれ波……さざ波のこと。さざ波はしきりに立ち、そのさざ波がやむ時がないというイメージから、「やむ時もなし」につながることがあり、この歌はその例。
○恋ふらく……恋しく思うこと。
千鳥鳴く佐保の川瀬のさざれ波やむ時もなし我が恋ふらくは(万葉集4-526)




