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第20首 心離れる頃
あいにあいて ものおもうころの わがそでに やどるつきさえ ぬるるかおなる
(伊勢)
何度もあなたと夜を過ごしたね。
そのたびに体を重ねたけれど、あなたの心が離れていくのを止められない。
もの思いに沈むころ。
服の袖がわたしの涙で濡れて、そこに月光が映っている。
見上げた月の顔が泣いているように見えるのはどうしてかな。
【ちょこっと古語解説】
○あひにあひて……何度も逢って。「逢ふ」は、単に会うということだけではなく、夜を共にすることまで含む。
○袖……着物の袖のことだが、和歌で袖が出てきたら、涙をイメージさせるものととらえておくのがよい。涙を拭うわけですね、袖で。
○さえ……「~までも」の意。現代語の「さえ」とは別物。
逢ひに逢ひて物思ふ頃の我が袖に宿る月さえ濡るる顔なる
(古今和歌集/恋5-756)




