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第192首 名を惜しむ
たまくしげ おおうをやすみ あけてゆかば きみがなはあれど わがなしおしも(鏡王女)
二人の仲を隠すのはわけないことかもしれません。
それでも、夜が明けてからあなたが帰ったとしたらどうでしょう。
あなたはいいかもしれない。
でも、わたしの名に傷がつくのですよ。
【ちょこっと古語解説】
○玉くしげ……櫛などの化粧道具を入れる美しい箱。ふたをして覆うものであることから、「覆ふ」を導く枕詞となる。枕詞とは、言いたい語の前置きに当たる語で、それ自体は訳されない。
○安み……「形容詞の語幹」+「み」という形で、「形容詞なので」という表現になる。簡単なのでくらいの訳。
○ば……仮定を表す助詞。「~なら」くらいの訳。
○が……ここでは、「の」の意味で使われている。
○し……強調を表す助詞。訳には表れない。
玉くしげ覆ふを安みあけて行かば君が名はあれどわが名し惜しも(万葉集2-93)




