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第19首 昔日の想い
つきやあらぬ はるやむかしの はるならぬ わがみひとつは もとのみにして
(在原業平)
月の光がさやか、梅の香がかすか。
あのとき、きみと感じたものと同じものであるはずなのに。
何かが違う。
ぼくだけがあのときのまま、めぐり来る春が違うなんてことがあるだろうか。
いや、そんなことはない、なにもかも昔のまま。
それなのになぜだろう、なにもかもがこんなにも違って見えるのは。
【ちょこっと古語解説】
○月やあらぬ……「月や昔の月ならぬ」の略。「や」は反語。反語とは、「~だろうか、いや~ではない」という、疑問の形を借りた否定。「ぬ」は、「―ではない」という打消の意であるので、全部で「月は昔の月ではないのか、いや、昔のままだ」というくらいの訳。
月やあらぬ春や昔の春ならぬ我が身ひとつはもとの身にして
(古今和歌集/恋5-747)




