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第188首 恋心枯れず
むらさきの におえるいもを にくくあらば ひとづまゆえに われこいめやも(大海人皇子)
一面に広がる紫草。
その中に立つあなたは輝くように美しい。
今はもう人妻となってしまったけれど、それを憎いとは思えない。
もしも憎んでいたら、これほどあなたに心引かれるだろうか。
【ちょこっと古語解説】
○紫の……この「の」は、「~のように」を表す比喩の用法。
○匂へる……「匂へ」の元の形は、「匂ふ」で、「美しく照り輝く」意。何かが香っているわけではないので、注意。「る」は元の形は「り」で、存続を表す助動詞。「~している」くらいの訳。全体で、「美しく輝いている」くらいの訳になる。
○妹……男性が、親しい女性に呼びかけるときの語。
○ば……仮定を表す助詞。「もし~ならば」くらいの訳。
○めやも……「~だろうか、いや~ではないなあ」くらいの訳。
紫の匂へる妹を憎くあらば人妻ゆえに我恋ひめやも(万葉集1-21)




