第187首 禁野の誘い
あかねさす むらさきのゆき しめのゆき のもりはみずや きみがそでふる(額田王)
赤く美しく輝く紫草の野、それは皇室が領有する禁断の土地。
そのようなところで、あなたは袖を振ってわたしを誘う。
今は人妻であるわたしを。
きっと野守が見てしまうに違いないのに。
【ちょこっと古語解説】
○茜さす……赤い色がさして美しく照り輝くことから、「日」「昼」「紫」「君(=美しいあなた、ということ)」などを導く、枕詞。
○紫野……紫を栽培している園。紫は、草の名で、根から赤紫色の染料をとる。
○標野……上代、皇室・貴人が領有し、一般の立ち入りを禁止した野。狩り場などに用いた。「禁野」とも。
○野守……立ち入りが禁止されている野の番人。
○見ずや……この「や」は、「~だろうか、いや~ではない」を表す反語の用法。全体で、「見ないだろうか、いや見ないことはない」くらいの訳。
○袖振る……袖を振って合図をすることだが、それにとどまらず、人の魂を招き寄せる仕草であることから、こちらに来て自分のものになりなさい、という意で、求愛の行動でもある。
茜さす紫野ゆき標野ゆき野守は見ずや君が袖振る(万葉集1-20)




