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第186首 雲への願い
ゆうづきし おおいなせそくも わがせこが いたたせりけん いつかしがもと(額田王)
夕べの月に雲がかかっている。
雲よ、どうか月を覆い隠さないで。
光が届かなくなってしまう。
わたしの大切な人がたたずんでいたあの樫の木のもとに。
【ちょこっと古語解説】
○し……強調を表す助詞で、色んな語につく。訳には表れない。
○なせそ……「な~そ」で、「~ないでください」という柔らかい禁止を表す。「せ」は、元の形は「す」で、「する」の意。全体で「しないでください」くらいの訳。
○背子……「主人、あの人」の意。女性が、親しい男性を呼ぶ言葉。
○けむ……「~していただろう」と過去の推量を表す助動詞。
夕月し覆ひなせそ雲わが背子がい立たせりけむ厳樫が本(万葉集/1-9)




