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第164首 波の向こう
あうことは なみじはるかに こぐふねの ほのみしひとに こいやわたらん
会うこともないあの人は
波の遥かの船のよう
ほの見ただけのあの人に
恋をし続けるのかしら
【ちょこっと古語解説】
○逢ふ……単に会うことだけではなく、男女が夜を共にする意も含む。
○なみぢ……なみの部分に、「無み」と「波」の二つの語が重ねられている。「無み」とは「無いので」という意味で、「波」は「波ぢ(=船の通う道筋)」とつながっていく。
○ほのみ……元の形は「ほのみる」で、「ほのかに見る・ちらりと見る」の意。
○し……元の形は「き」で、過去を表す助動詞。
○や……疑問を表す助詞。
○わたら……もともとは「移動する」の意だが、動詞に続いて、「~し続ける」の意を添える。
○む……推量を表す助動詞。「~だろう」くらいの訳。
逢ふことはなみぢはるかに漕ぐ船のほのみし人に恋ひやわたらむ(新拾遺和歌集)




