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第158首 濡れる黒髪
わがなみだ かかれとてしも くろかみの ながくやひとに みだれそめにし
わたしの涙が、長く伸ばした黒髪にかかる。
その黒髪は、まるであの人に寄せる思いのように、乱れ始めている。
こんな風になれと思って、あの人を好きになったわけじゃないのに。
【ちょこっと古語解説】
○かかれ……「かかる」と「かかり」のそれぞれの命令形。「かかる」は、水がかかるの意であり、「かかり」は、このようであるの意。「かかれ」には、この二つの意味が重ねられている。このように、一つの語に二つの意味を重ねる用法のことを、掛詞という。
○とて……と思って。
○しも……強調を表す助詞。訳にはあらわれない。
○人……「大好きなあの人」のこと。
○そめ……元の形は「そむ」で、動詞の下につき、「~始める」の意を添える。
○にし……「に」は元の形は「ぬ」で完了を表す助動詞、「し」は元の形は「き」で過去を表す助動詞。過去のあるときにある動作が完了したことを表し、「~てしまった」くらいの訳。
我が涙かかれとてしも黒髪のながくや人にみだれそめにし(新千載和歌集)




