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第143首 思い出す涙
しいてなお したうににたる なみだかな われもわすれんと おもうゆうべを
抑えようとしているのに、どうしても出てしまう。
あの頃を懐かしむような涙。
あの人はぼくのことを忘れたろう。
だから、ぼくもあの人のことを忘れてしまおう。
そう思うのに、あの人と過ごした夕暮れ時を思い出してしまうのだ。
【ちょこっと古語解説】
○しひ……元の形は「しふ」で、「無理に押しつける・しいる」の意。
○したふ……「恋しく思う・慕う」の意。
○む……意志を表す助動詞で、「~しよう」の意。
○夕べ……夕方のこと。
しひて猶したふに似たる涙かな我も忘れむとおもふ夕べを(続後拾遺和歌集)




