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第113首 渡らない川
よそにのみ なおいつまでか おもいがわ わたらぬなかの ちぎりたのまん
離れた所から、あの人のことを思う。
いつまでこんなことばかりしているんだろう。
わたしの作る涙の川を、あの人は渡って来てはくれない。
それなのに、これからもあの人の約束を頼りにするんだろうな。
【ちょこっと古語解説】
○よそ……離れた場所のこと。
○思ひ川……福岡県中部、太宰府天満宮の付近を流れる御笠川のこと。恋に悩んで流した涙が川を作るほどであると、恋に苦しむ様子を例えた表現。
○ぬ……元の形は「ず」で、打消を表す助動詞。「~ない」くらいの訳。
○ちぎり……約束を表し、特に男女の間の恋の約束のことを言う。
○たのま……元の形は「たのむ」で、「頼りにする」の意。
○む……推量を表す助動詞。「~だろう」くらいの訳。
よそにのみ猶いつまでか思ひ川わたらぬ中のちぎりたのまむ(新後撰和歌集)




