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第109首 現実の儚さ
むばたまの やみのうつつは さだかなる ゆめにいくらも まさらざりけり
闇の中、あの人と会った。
そうして夜を過ごして、朝を迎えたわたし。
昨夜のことは本当にあったことなのかな。
いつか見た夢よりちっとも勝ってないみたい。
【ちょこっと古語解説】
○むば玉の……暗黒に関する語を導くための言葉。この語自体は訳さない。この語があると次に、暗黒に関係がある語――黒、髪、夜など――が出てくることが分かる。
○うつつ……現実のこと。
○さだかなる……元の形は「さだかなり」で、「はっきりしている」の意。
○ざり……元の形は、「ず」で、打消を表す助動詞。「~ない」の意。
○けり……「~だなあ」と、詠嘆を表す助動詞。
むば玉の闇のうつつはさだかなる夢にいくらもまさらざりけり(古今和歌集)




