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第11首 叶わない朝
ありあけの つれなくみえし わかれより あかつきばかり うきものはなし
(壬生忠岑)
思いを告げたけれど、断られてしまったあの日。
夜はもう明け方で、家に帰るぼくは、空に残る月を見た。
手のとどかない所にいる月のその冷淡さ。
あの日以来、明け方にふと目を覚ますと、叶わなかった恋を思い出す。
日が昇る前の時間帯がすっかり嫌いになってしまったよ。
【ちょこっと古語解説】
○有明……月が空に残ったまま、夜が明けること。その月のことを「有明の月」という。
○つれなく……元の形(=辞書で引くときの形)は「つれなし」で、「無関係だ、冷淡だ」の意。現代語でも「つれない」と言う。第6首に同じ。
○暁……「夜明け、明け方」の意。女の家に泊まった男が暁に帰ることを、「暁の別れ」という。
○うき……元の形は「うし」で、「つらい、憂鬱だ」の意。
有明のつれなく見えし別れより暁ばかりうきものはなし
(古今和歌集)




