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第99首 あの時の光
きぬぎぬの たもとにわけし つきかげは たがなみだにか やどりはつらん
月光が、重ね合わせたぼくときみの服を、照らしていた。
その袖を離せば光は消えて、ぼくは去り、きみは残る。
あの時見た月の光は、今頃誰の涙に宿り、消え果てているのだろうか。
【ちょこっと古語解説】
○きぬぎぬ……衣衣と書く。恋人同士は互いの衣を重ねかけて寝て、翌朝、それぞれの衣を着て別れる。その別れのことを「きぬぎぬの別れ」という。きぬぎぬは、後朝とも書く。
○袂……袖のこと。
○月かげ……月の光のこと。「かげ」には光の意味があるので注意。
○たが……「た」は「誰」の意であり、「が」は「の」の意。合わせて「たが」で、「誰の」の意。
○らむ……現在推量の助動詞。「今頃~しているだろう」の意。
きぬぎぬの袂にわけし月かげはたが涙にかやどりはつらむ(続古今和歌集)




