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第1首 恋の始まり
ほととぎす なくやさつきの あやめぐさ あやめもしらぬ こいもするかな
(詠み人知らず)
ほととぎすが鳴いている。
その声には、人恋しくさせるような切ない響きがある。
時はさつき。
降り込める雨の向こうに、きみを想う。
きみは今何をしているの。
刀のかたちをしたあやめ草で邪気を払うことはできても、この想いを払うことはできない。
もう何も分からないよ。
ぼくはきみに恋をしているのかな。
【ちょこっと古語解説】
○五月……今の六月くらい。ちなみに、五月晴れとは、梅雨時のたまの晴れ間のことを指す。今の五月、梅雨前の真っ青に晴れ渡った状態を指すわけではない。
○あやめ……物事の道理、筋道。簡単に言うと、みんなが納得できること。そこから、「あやめもしらぬ」とは、「みんなが納得できることも分からない。もう何にも分からないよ!」くらいの意。
時鳥鳴くや五月のあやめ草あやめも知らぬ恋もするかな
(古今和歌集/恋1-469)