ノブとアキラの廃墟探検
拙作『なんかオレの体が正しく第二次性徴しないんだが?』のサイドストーリーです。まだ読んでいない方はそちらを先に読んでおくことをおすすめします。
おっす。俺は田中ノブヒロ。小学5年生だ。
今日は街の外に遠征して友人の和泉アキラと廃墟探検だ。ちょっとわくわくするな。
なんでもその家には悪霊が住み着いていて、恐ろしいお化けがでるという噂があるそうなんだ。
アキラも興奮して元気にはしゃいでいる。
「ノブ!どんなお化けがいるんだろうな?楽しみだね!ヘヘへ」
「お化けとか迷信だろ。誰かが適当に話を盛ったんだろ」
「えー、もしかしてノブ怖いのか?」
「ば、ばーか、オレがお化けなんかにビビるわけねーだろ!」
俺達はその廃墟に着いた。そこはツタがいっぱい絡まっている古い立派な日本家屋だった。
「おー、なんか思ってたよりデカい家だな」
「探検のしがいがありそうだねノブ!」
しかし家は塀で囲まれていて正面の門も閉まっていて入れそうにない。
二人で周囲を探ってみる。
「おーい、ノブ。ここから入れるみたいだよ!」
裏手にある屋根のついた古びた門の扉は壊れていて、そこから中へ入れるようだ。屋敷の奥の荒れ果てた様子が見える。
アキラは全く怖がって無くて、むしろいつもより興奮した様子で中へと入っていく。俺はと言うとちょっぴり緊張してきた。
入った先はどうやら勝手口のような場所で、奥に小さな祠がある。
アキラはいつものように祠を見つけると、丁寧に祠を掃除して手を合わせている。
前にアキラに「なんでそんなことするんだ?」と聞くと、アイツのお母さんさんにどんな神様にも分け隔てなく接してあげなさいと言われたらしい。
俺も手を合わせておくか。ついでにお祈りしとこう。あいつと一生仲良くできますようにって。
それから俺達は風雨に耐えきれずに割れてしまっていた大きな掃き出し窓から家の中へ入る。
ちょっと暗い。俺は持ってきていた懐中電灯をつけてあたりを照らす。
広い和室だった。残置物が多い。家具やゴミが散乱していて、足の踏み場がなくて歩きにくい。それに湿気がひどく、畳も腐って腐葉土のような匂いを放ちズブズブになっている。
アキラは身軽に障害物を避けながら、引き戸や押し入れを開けたりして宝探しを始めている。
「おっ宝、おっ宝、どこかな~♪」
「アキラ、楽しそうなのは良いけど、足元に気をつけろよ」
「わかってるよ。ノブは心配性だな!」
湿気で重くなった箪笥の引き出しを開けようとしたが全然開かずに苦戦したり、物置かと思ってこじ開けた先が便所だったりした。でも楽しい。
「お、ノブー!ここに階段があるよ!二階にいけるみたい!」
アキラが二階への階段を見つけたらしい。大丈夫かな?床が腐って抜けたりしないと良いけど。アキラだけで行かせるのは心配だ。
「ちょっと待ってろアキラ!俺も一緒に行くからー!」
心配していた二階は、どこも雨漏りもなく、比較的綺麗なままであった。作りの良い家だったのかな。
立派な布団や着物なんかもそのまま残っていて、オレとアキラは荒らすのは良くないと思って、そのままにしておいた。
ちょうど良いので二階の畳の間で、休憩することにする。
リュックから持ってきたお菓子やパンを畳の上に広げ、水筒にお茶を注ぐ。
「ちょっと疲れたな。朝早く出たけど、もう午後3時だわ。ここまで歩くのにも地味に時間かかったしな」
「うんうん。でも結局、お化け居なかったな。ちょっとがっかりだったよ。オレ達が来たから逃げたのかな?アハハ」
「アキラ、言っただろ。誰かが話を盛ってたんだって。本当はお化けなんかいねーんだよ」
「でもうちのお母さんは神様やお化けはちゃんと居るって言ってたよ?多分、さっきの祠の神様がオレ達を守ってくれているんだよ」
「アキラらしいな。俺はサンタクロースと一緒で、アキラのかーちゃんがアキラに言うこと聞かせるために話を盛ってるだけだと思うけどな。くくく」
アキラは「えーそんなこと無いもん。あ、ここから祠が見えたりするかな?」と言いながら祠があった裏側の窓に向かい、障子や窓を開けてみる。
流石に古民家とは言えアルミサッシになっていて、少し重たいが窓は開いた。
アキラは出窓の縁に乗り、周囲を見渡し始める。
「待て、アキラ。あんまりそこに寄りかかるな、危ないぞ」
「あ、見えた。あそこ。こっちには池もあるよ!あっ!!!」
ビュー!!
突然風が吹き込んで、家の中の埃が舞い上がる。天井からコトンッとなにかの音がした気がする。
バキッ。
アキラが寄りかかっていた木製の柵から嫌な音がする。その瞬間、俺の視界はスローモーションに見えた。
俺は咄嗟にアキラに手を伸ばそうとするが、掴もうとする指が宙を切り、アキラの体が外へ投げ出される。
「ばかっ」
「うわああああああ!」
アキラはそのまま一階の屋根の瓦の上にガチャンと尻もちをついたが、勢いは収まらない。
そのまま滑り落ちていき、再び空に投げ飛ばされる。
ドボーン!
アキラは裏庭の池にダイブしてしまう。
やばいぞ。アキラは昔海水浴場でクラゲに噛まれて溺れて以降、風呂以外の水に恐怖心を抱くようになっている。
早く助けないと、浅い池でも溺れてしまう可能性がある。
俺は急いで階段を駆け下り、足場の悪い畳の上を飛び跳ねながら裏庭へ出る。
アキラがパニックになって手足をバシャバシャと搔くように動かしている。
「のぶ!!!おぼぼべる!!!ばぶげべ!!」
「大丈夫だアキラ!ただの池だ!深くないぞ!」
俺はザブザブと池に入っていき、擦り寄るアキラを抱き上げる。
「ごほっごほっ」
「水のんじゃったか、大丈夫か?」
俺はアキラの背中をポンポンと叩く。
「ゲホゲホッ。ノブー。ううう寒い。。」
「アキラ。一旦、二階に戻ろう。そのままじゃ風邪ひいちまうぞ。あそこのシーツとか使わせてもらって、体を拭こう」
家の中に上がろうとしたがアキラの足取りが重い。仕方ない、俺はアキラを抱きかかえてそのまま移動する。
「すまん。ノブ…」
「大丈夫っ。乾かしてっ、ちょっとっ、休めばっ、すぐ暖まるっさっ」
ぐぐぐ。抱えたまま階段を上がっていくのは結構しんどいな。
俺はそのままアキラを二階の畳の上に下ろし、押入れからまだ清潔そうなシーツを数枚引き抜いてアキラに渡す。
「早く服脱いでそれで体拭け」
「うん…ううううひぃ。さむっ」
アキラが服を脱ぎ始めると華奢な体があらわになる。しかし濡れた体は少し震えている。
家の人には悪いが、この布団も使わせてもらおう。もう誰も住んでないから良いよな?
俺は床に布団を敷き、アキラを横にさせて休ませる。
「ありがと。ノブ」
アキラは少し安心したように、スースーと眠り始めた。
時計を見ると、午後4時になる頃だった。このままだと帰る頃には暗くなっちまいそうだな。帰ったらかーちゃんに怒られるが、仕方ねえか。
「ううう。ノブ。お茶飲みたい」
「お、待ってろ。まだ残ってたはずだ」
それから一時間半ほど経ち、アキラが目覚めた。のどが渇いたらしく少しぬるくなっているお茶をごくごく飲んでいる。
顔色があまり良くないな。
俺はかーちゃんの真似をして、アキラのおでこに触れて熱を測る。
熱い。やっぱり風邪を引いたのだろうか。池の水も飲んでしまっていたし心配だ。
空は少し日が傾いて、暗くなり始めている。
そろそろ帰らないとやばい。
「なあ、アキラ。そろそろ帰らないと暗くなっちまう。歩けるか?」
「うん。大丈夫。お母さんに心配かけたくないもん」
アキラはそう言って立ち上がるが、フラフラと足元がおぼつかない。
「いいよ。俺がおんぶしてやるから捕まれ。ほら」
「ごめん。ノブ」
俺は弱ったアキラを背負ったまま一階へ降りてきた。
裏庭にでると祠の方からチリンという音がしたような気がした。祠は夕日に照らされていて、少し神々しく見える。でもこの祠に風鈴なんてあっただろうか?
まあいいか、と俺はなんとなく祠にお辞儀をしてから、廃屋を後にした。そして来た方向へ歩きはじめる。
「へっ。こりゃ良い訓練になりそうだな」
俺は来た道をひたすら歩く。額からは汗が滴り落ちるが気にせず、一歩、一歩、テンポを守りつつ、ゆっくりと歩を進める。
日は落ち始め、夜の帳が落ち始めた。来るときはそれほど遠く感じなかった家路が、とても遠い。
背中から伝わるアキラの体温が熱い。ハアハアと息も荒くぐったりとしていて、そのせいもあっていつものアキラよりひどく重たく感じた。
「ごめんください!ノブヒロです!アキラ君を連れてきました!」
ようやく街に入り、そのままアキラをおんぶしたまま、和泉家のチャイムを鳴らす。
アキラのお母さんが心配げにとどたどた出てきて、「まあ大変!」とアキラを抱きかかえて奥に連れて行った。
同じく玄関に出てきたアキラのお父さんに、事の次第を話す。アキラに熱があること、池の水を飲んでしまったので病気の可能性があることも伝えたが、アキラのお父さんは優しく「そうか。大変だったね。ありがとう。君も無事で良かった」と言ってくれた。
「ノブヒロー、あんた!!」
「ノブヒロ!お前何してた!」
するとアキラの家の奥から、ドタドタと足音がしてかーちゃんとオヤジの声が聞こえてきた。え?どういうこと?
どうやら俺の両親も心配になってアキラの家に訪ねてきていたらしい。
二人が帰ってこないため、中に上がらせてもらい、これから警察に捜索願を出すか、などと話し合っていたらしい。
そして俺はこっぴどく怒られた。他所様の大事な子を危険に晒して何を考えているのだ!と。いや、誘ってきたのはアキラだし。それに俺はちゃんとアキラを背負って家まで帰してあげたじゃないか。くそっ。納得行かねえ。
でも今回の件で、アキラは強がってはいるが、俺に比べて体力もなく弱いことがわかった。俺は決心する。これからは俺が友人としてアキラを守ってやらなきゃ。
----------
和泉ユキ(アキラママ)視点:
私は和泉ユキ。除霊が家業だった実家の梢梠家の末娘。たまにこうして忙しくて手が足りなくなった姉からヘルプを求められることがありますわ。
今回の依頼は廃墟になった家屋の裏にある、小さな祠の除霊ですか。
意外と近所で助かりました。
おやめずらしい。この祠の主はまだ力を残していますね。誰か祠の掃除をしているようで、祈りにより強い力を与えられた形跡があります。
常ならば、管理されなくなった祠には低級の霊が住み着いたり、悪霊が住み着いたりするのですが。
除霊と言う話でしたので懸念は残りますが、見たところこのままでも問題は無いでしょう。私は手を合わせ、祠に力を少し分けてあげました。
家屋の方に少し気配がありますが、悪意はなさそうです。むしろなぜか私に怯えているようです。
おかしいですね。少し話を聞いてみましょう。
なになに?ここに来た息子を少しだけ脅かそうとしたら、とても危険な目に遭わせてしまったですって?
ああ、もしかしてノブ君とアーちゃんが来た廃墟というのはここだったのですか。ふふふ。
無事だったなら良いのですよ。正直に謝ってくれてありがとう。




