舞踏会
城の高い天井にハイヒールの靴音がカツカツと高く響く。
その後ろから、ひたひたといくつもの低い足音が迫る。
早く、早くここから逃げ出さないと!さもなければ…。
気ばかりあせるが、ロングドレスの裾を両手で持ち上げているせいで、思うように足が動かない。
ちらりと後ろをふり返ると、ヤツらはどんどん、私との距離を縮めてきている。
半裸の真っ白な体。ツルツルに剃り上げた頭。黒く落ち窪んだ目。そして、そこだけ鮮やかに紅い唇。
ただでさえ無気味なのに、前かがみに両手を突き出しながら腰をかがめがに股で歩くその姿は、もはや異形そのものだ。
このままでは、いずれヤツらに捕まってしまう!
とうとう私は靴を脱ぎ捨て、裸足で駆け出した。
私の淑女らしくないその姿を目にしたからか、ヤツらはいかにも下卑た笑いを頬に浮かべ、ますます速度を上げて、私に追いすがってくる。
速い!でももう少し!あと少しで、城から逃げ出せる!
決死の思いでさらに速度を上げた、その刹那。あらぬ方向から現れた白塗り男が、がっちりと私の腰に抱きついた。
「つかまえたあ…」
この上なくうれしそうな囁きが耳を打ち……私は絶望の余り、気が遠くなった。
城の中庭の中心であかあかと燃える篝火。その周囲を、腰を落とし、妙な手つきで踊り狂う、真っ白な肌の異形たち。
ドレスを脱がされた私は、無理矢理彼らにせっつかれ、その輪に向かって引き立てられていく。
ああ、どうしてこんなことに。私はただ、ドレスを着て素敵な王子様と踊りたかっただけなのに…。
ハゲヅラをかぶせられた上、体中に真っ白い粉をベタベタ塗りたくられ、目のまわりをぐりぐり黒く、唇を真っ赤に塗りたくられた私は、もうこうなったらヤケクソだわ、と開き直り、彼らの輪に交じって腰を落とし、見よう見まねで踊り始めた。
見れば、すぐ前で踊るのは私をつかまえた張本人である王子様その人。そして、その前は太鼓腹を突き出した王様で、さらにその前には、王妃様だ。
皆、日頃の端正な姿はどこへやら、いかにも楽しげにペタペタと裸足で地面を踏みしめ、カギにした両手を振り上げている。
アバンギャルド城恒例の、前衛舞踏会の夜は、こうして更けゆくのだった。




