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 十数年後。

 マーレブラウ王国のアイン城から遠く離れた辺境の地の森の奥にある邸宅の中の一室にリネア・クラークの姿がありました。

 リネアはすっかり大人の女性となり最近、十五歳を迎えたばかりなのでした。

 ここは王国が所有する邸宅の中の一つでありその中でも建物中では小さい規模に分類されますが、一人で使うには十分な大きさの邸宅なのでした。

 どうして彼女がアイン城にある自室ではなくここにいるのか休暇ではありません。

 ここで暮らしているのです。

 暮らしているといっても、一人ではなく数人の侍女と共に暮らしていたのです。

 彼女がこの邸宅で暮らすようになったことを説明するには赤ん坊の頃まで時間を戻さなくてはなりません。


 数日前から嵐の気配があり海は大荒れで漁に出ることもできず青々とした海の色も黒色に染まってしまうほどでした。

 そんな嵐も過ぎ去った夜のことでした。

 王宮の誰もが寝静まった夜に乳母がリネアがしっかりと眠っているかを確認しに部屋前までやって来ていました。

 部屋に入るとドアをそっと静かに閉めると子供用ベッドに眠っているリネアをみて乳母は「大きくなったわね」と思わず呟いていたのでした。

 それもそのはずリネアが生まれてから生後六ヶ月を迎えていたのでした。

 寝ていることを確認した乳母は静かに部屋を出ていき、部屋ではひとり気持ち良さそうに寝息をたてながらリネアが眠っています。

 すると、突然強い風が吹いたかと思えばバルコニーに繋がる引き戸が自然に開くと黒色のローブを身につけた見知らぬ人物がリネアが眠る子供用ベッドまで歩いてきました。

 この人物は頭に被っていたフード取ると、正体が現れます。

 この人物は人間のように見えますがどことなく漂う人間ではないただならる雰囲気を感じとることが出来ます。

 フードで隠れていた金色の瞳、顔には魚の鱗のような青色の模様があり、雨は降っていないというのにくるくるとうねった長い炭のような真っ黒な色の髪の毛は濡れています。

 しばらくの間リネアを見つめていたかと思えば、眠っているリネアの小さな頬に手を当てます。


「愛おしい子よ、私のモノになりなさい」

「♪ああ~ああ~ああ~あああ♪」


 次の瞬間小さな声で歌を歌い出したのです。

 すると、少しずつリネアの右側の皮膚が青色に覆い始めたかと思えば、青色になった部分が光を放ち徐々に青色が浸透していきます。

 ただの青色というわけではなくまるで魚の鱗の模様のようなものが皮膚を覆っているのです。

 この人物が歌っている途中でリネアが泣き出してしまいました。


「静かにするだ。静かにしておくれ」


 しかしリネアの声はどんどん大きくなっていき、この人物はやむ終えず慌てて止めさっき入ってきた引き戸から逃げていったのでした。

 リネアの大きな泣き声に気が付いた乳母が急いで部屋にやってきました。


「リネア様」


 リネアがいるベッドを覗くとそこには、いつもと違う変わり果ててしまったリネアが大きな声を出して泣いていたのでした。

 乳母は思わず手で口を押さえると慌てて部屋を出ていきます。


 リネアがおかれている状況はすぐさま親である陛下と王妃の二人に知らされることとなりました。

 二人の他にも宰相のガブリエル、侍女長のライラにも知らされたのでした。

 リネアの頬には魚の鱗の模様が皮膚を覆っておりここにいる誰もが最初見た瞬間言葉を失ってしまったのは初めてみる症状であったからです。

 大きさは十mm(1cm)程でした。

 部屋を移動したリネアは泣き止み子供用ベッドの中ですやすやと寝ていたかと思えば突然泣き出し、乳母がリネアの様子を確認するとすぐに泣き止んだかと思えば次にぐったりとした顔とし呼吸が荒く、咄嗟に左側の頬を触ると皮膚から伝わる異常なほどの熱さが伝ってきます。


「陛下、リネア様が……」


 皆が一斉にリネアに視線が集まります。

 陛下はリネアを見るとすぐさま異変に気付きカブリエルに王族専属の宮廷医を急いで連れてくるように命令します。

 命令を受けたカブリエルが部屋から急いで出ていきます。

 侍女長のライラと乳母は準備はベッドに近づくとリネアの状態を観察すると、二人は話し合いライラは熱を冷ますもの用意するため部屋を出ていきます。

 乳母は近くにあったワゴンからをガーゼをとり汗を拭きます。

 その様子を陛下と王妃はただ見ていることしか出来ません。

 しばらくするとライラが戻ってきて、ワゴンにはボールに入った水、氷、ガーゼなどが載っていました。

 ライラはガーゼに水を染み込ませると、乳母に手渡しリネアの脇に挟ませます。

 その間にライラは手早く氷枕の準備を始めるのを見た王妃は居ても立っても居られずライラに自分にも出来ることはないのか尋ねてきた。

 ライラは一瞬驚いたが、リネアの着替えるための衣類の準備を頼み、王妃のその様子を見た陛下はワゴンからガーゼをとり乳母の近くまでやってくるリネアの汗を拭いた。

 数分後、王族専属の男性宮廷医を連れてガブリエルが戻ってきました。

 王族専属の宮廷医は常に王宮内にある一室に常駐していました。

 宮廷医がきて乳母と王妃はベッドから離れ、宮廷医がリネアの頬にある魚の鱗のような模様を見て驚きます。

 陛下はその様子に気付いて早く診察するように命令します。

 診察が始まり、陛下は王妃の近くまで来ると寄り添い診察の様子を見守ったのでした。

 診察が終わり、宮廷医からは診断結果が伝えられ、おそらく魚の鱗のようなものにリネアの体が拒絶反応をみせ熱が出たというものであった。

 この夜に始まったリネアの熱は長引き、ライラを含めた数人の侍女と乳母が代わる代わるリネアの看病を続けたのでした。


 一時は危険な状態に陥り、陛下と王妃は毎日リネアの部屋までやって来ると心配で心配で眠れず熱に浮かされているリネアをみてなにも出来ない自分達を責めてはやるせない気持ちになるのでした。


「リネア」


 王妃がリネアの小さな手を握ると数日経ったというのにまだ焼けるように熱く、この小さな身体で一生懸命に堪えているのだと思うと自然と涙が溢れてきたのでした。



 数週間後。

 リネアの熱が治まり陛下はリネアの顔に出た魚の鱗の模様をどうにかして直せないかと王族専属の宮廷医に診てもらったのですが、宮廷医が今まで診たことのない珍しい病状でどうすることも出来ないという。


「なぜ、なぜ、治せないのだ!!!」

「申し訳ありません」


 陛下は、声を荒げて怒ったのでした。

 王妃は、陛下のみると拳を強く握り怒りを抑えようと必死な陛下の姿がありました。


「陛下」


 王妃に呼ばれた陛下ははっと我に返り怒りを鎮めるのでした。


「申し訳ない。声を荒げてしまった」

「いえ、陛下のお力になれず申し訳ございません」


 もちろんこの事は口外しないように宮廷医に口止めをさせたのでした。

 陛下は王国内にいる医師に病状だけ伝えては治せる者がいないか探し続けたのでした。

 例えば、薬草を煎じた薬や塗り薬のようなものまでも使える物は全てやり尽くしたのですがリネアの魚の鱗のような模様は消えるどころか少しずつ成長していくにつれて広がっていったのです。

 陛下はどうにも出来ずにやるせない気持ちになりました。

 その姿は王国の偉大なる王ではなく一人の子供の父親としての姿なのでした。

 そして王妃も同じく一人の子供の母親として何とか治してあげたいと思っていたのでした。


 ◆◆◆


 月日は流れリネアは三歳を迎えていました。

 あの日リネアのあの容姿を見た陛下と王妃でしたが、変わらぬ愛情で接し続けていたのでした。


 しかし、一方であの容姿を気味悪がる者もいるのも事実なのでした。


「不気味よね」

「突然現れるなんて呪われてるのかしら」

「本当よね」

「あんな姿、私が親なら堪えられないわ」


 三人の侍女たちが廊下の窓を拭きながらこそこそと話をしています。

 すると廊下の角から侍女長ライラが通るとさっきまで話していた話し声が止みます。

 ですが、誰からみても王女であるリネアの容姿について話していることが分かる内容なのでした。

 ライラはなに食わぬ顔で通りすぎましたが、もう一度侍女たちがいる場所まで戻ってきました。


「あなたたち」


 後ろでライラの気配を感じとった侍女たちは一斉に振り返り返事をします。


「「「はい」」」


 三人のうちの一人がライラに質問をします。


「侍女長、何がございましたか?」


 ライラはその侍女を頭のてっぺんから足先まで見ると顔は平然としているもの抑えられない感情を抱えつつ侍女たちに話し出します。


「皆さんにお話ししたいことがあるの」


 ライラのいつもとは違う雰囲気を感じ取ったのか一列に並びだし、ライラの鋭い目付きと威圧感に圧倒されてしまい侍女たちは縮こまり視線を下に移したのでした。


(わたくし)は、あなたたちが気に入らないのであれば辞めてもらってもよいのですよ」

「え」

「な、な何のことでございますか?」

「そうでございます」


 侍女たちは言い逃れのように次々と口走ります。


「私が、知らないとでもお思いですか?」


 ライラは気持ちを沈めて我慢していましたが、我慢を越えると腕を組み次の瞬間あたりの空気が凍るのが分かります。

 そのあとの事はいうまでもなく、三人の侍女たちは辞めて侍女長であるライラが最も相応しいと思っている侍女数名が選ばれリネアのお世話をすることになったのでした。


 陛下と王妃はリネアのことを守るためにある決断を下したのです。

 人前に出る時はベールを鱗の模様を隠すために被るということでした。

 顔部分に鱗の模様があるため衣服を着たりして隠すことが難しく、包帯などをして隠したら他の疑いの目を向けられてしまうためどうすることも出来ずベールを被るという案に決まったのでした。

 成長するにつれて自我が芽生え始めるとベールを着けることを拒むようになっていったのでした。


「これつけたくないー」


 足をバタバタさせながら駄々をこねるリネアに陛下も王妃も心を痛めていたのでした。

 そしていつも王妃はリネアに諭すのです。


「リネア、これはあなたのためなのですよ」

「わたしの、ため」

「そう、リネアのため」


 この頃のリネアの一日は身支度を済ませると侍女が朝から絵本を読んでくれるのです。

 それに飽きると絵を描いたり、お昼寝をしたりほとんど自室の大きな部屋の中で一日出ず過ごし、唯一夕食を家族で食べることがリネアにとって一日でもっとも楽しみな時間なのでした。

「おいしいです。おとうさま」

「ああ、美味しいなリネア」

「ゆっくり食べなさいねリネア」

「はぁい。おかあさま」


 夕食を終え、談話室までやって来ると陛下と王妃とリネアは仲良くソファに座ります。

 リネアは王妃に今日の出来事を話し終えると三人は、リネアでも出来るカードゲームをやります。

 しばらく楽しんでいるとリネアの眠気がおそってきました。

 リネアは寝まいと首をぐらぐらさせながらも寝ないように我慢していたのはこの時間が終わってほしくないのだとあの頃幼いながらにも思っていたのです。


「リネア、眠いのね」


 リネアは目を擦りながらも抵抗します。


「おかあさま、ねむくない」


 しばらくすると、リネアは力尽きたようにソファに寄りかかり目を瞑ってしまいました。


「さあ、今日は私が部屋まで連れていこう」


 いつもは、乳母が部屋まで連れていくのですが今日はいつもとは違い、陛下がリネアを抱き抱えリネアの部屋まで連れていきベッドに寝かせてくれたのでした。

 その後ろを王妃が歩き微笑ましくふたりを見守っていたのでした。


「幸せそうな顔で眠っているわね」


 王妃はリネアの顔にかかった髪の毛を退かします。


「ああ、幸せそうだ」

「でも、」

「言うでわはない」

「ごめんなさい。あなた」


 王妃は耐えられなくなり目に涙を溜めたのでした。


「謝ることはない」


 王妃は、もう一度リネアの頭を優しく撫でると、部屋を出る前に挨拶をします。


「おやすみ、私たちの愛しのリネア」


 陛下は王妃を支えながら部屋を出ていったのでした。


「おとうさま、おかあさま……」


 リネアの寝言が悲しくも静かに部屋に残ったのでした。


 誰もが一番知りたいことそれはあの日、あの夜にリネアの顔に魚の鱗の模様を生み出した謎の人物は誰なのかということ。

 皆がそれを知るのはもう少しあとのことになる。






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