第1話「フレン」
「本日のニュースです。歴史的大発見です!西日本近海の海底で約800万年前に建てられた最古の古代遺跡が発見されました!こんなにも昔なのにも関わらず、遺跡の形は微かに残っており、専門家曰く「ありえない」と詳しく調査を行うそうです!」
「これって人類が生まれた時より前のことだから歴史を覆す、大変なことだよねぇ?」
「はい!海の9割は謎と言われていましたが、まさかこんな発見があるとは思いませんでしたね!しかも遺跡を見るにかなり発展していたと思われ……」
ピーンポーン!!
「お〜い!隼也!!」
そこで俺はテレビの電源を切る。
「は〜い!」
俺は田向村に住んでいる。名前は渕上隼也中学1年生だ。今日から夏休みなので友達の駒井優雅と最近心霊スポットで話題になっている近くの地夢山の地夢幸月樹海へ探検しに行こうと約束していた。
ガチャ!!
ドアを開けると夏の熱風が家に入ってくる。そして前には小さなバックと水筒を持った優雅が立っていた。
「親から許可は貰った?」
俺が聞くと
「ああ!立ち入り禁止の場所へだけはダメって言われたけど夕方までに帰ってくればいいって!」
「俺と同じ感じだね」
「じゃあ早速行こうぜ!!」
そんな会話をして俺達は山へ向かう。
「なぁなぁ!テレビ見たか?」
優雅が目を光らせて聞いてくる。
「古代遺跡がなんとかのやつ?」
「そうそれ!わくわくするよな!」
「でももう昔のことでしょ?」
「そうだけどさぁ〜」
少し前を歩いていた優雅は後ろを向いて笑顔で言う。
「楽しそうだし!行ってみてぇよな!」
「そう…だな、行けたらいいな」
「お前もしかしてビビってるのか?」
「うっ……だって何があるか分からないだろ?」
「これから樹海に行くってのに行きもしないところでビビんなよ〜隼也は怖がりだな。」
とからかってくる。
(実は樹海も少し怖いんだよな……悪い噂も少しあるし……)
少しそう考えていたら優雅からしたら黙り込んでしまったように見えたらしくすぐに
「わりぃ、からかいすぎた。」
と謝ってくる。
「俺らの仲なんだからわざわざ謝んなくてもいいんだよ?」
そう言うと優雅は頭を搔く。
そんな会話をして気づけば山が近づいて見えてきた。
「もうすぐ着くな!」
「うん!」
そこへこの町のあるおじぃさんが俺たちに声を掛けてくる。
「元気な子たちよ、どこに行くのかい?」
「俺達今からあの山に行くんだ!」
優雅が元気に答えると目を細めておじぃさんは山を見る。
「あの山か……昔は実は海に沈んでおったんじゃぞ?」
「え?あの高い山が?」
俺が驚いて聞くと
「山だけじゃない、この町もな。だが、昔と言っても”500万年”も昔の話じゃがな……」
「なんだよ〜そんな昔の話かよ〜今じゃもう関係ないじゃん!」
頭の後ろで両手を組んで少し悲しそうに優雅は言う。
「そろそろ行くか!じゃあ!おじぃさんも熱中症とかに気をつけてね。」
おっとと言わんばかりに
「立ち入り禁止の場所には入るなよ〜!!」
おじぃさんのその言葉に頷きながら手を振って山へ向かう。
そしてしばらく歩いて山の麓へ着いた。
休日の夜は観光客や心霊スポットを聞きつけた高校生などが集まるが昼はあまり混んでいない。
「あまり人がいないな……」
「あまりってか俺達以外いないな……」
入口の前にある地夢山という木の看板を前に
「どうする?今度にするか?」
と優雅は相談してくる。
「いや人が居ない方が逆に冒険っぽいしいいじゃん」
「おっ!いいな、怖いの克服したか?」
「ああ!」
そう返事した俺のまゆはぴくぴくと動いている。
「先に言うけど無理はするなよ?」
「大丈夫だ!」
「なら…行くか!」
俺達は二人で並んで山に入る。
こんな田舎にとっては心霊スポットでも観光場所として重要だからかな?地夢幸月樹海への道案内がちゃんとある。
そしてついにある看板が見える。
地夢幸月樹海
・立ち入り禁止の看板がある場所は圏外でとても危ないため絶対に入らないこと!
この看板を見て
「ま、まぁ立ち入り禁止の場所に入らなければ大丈夫なんだからさ行こうぜ!」
優雅が少し怖気付いたようだけどすぐに調子を取り戻す。俺はコクッとうなづいて優雅の後ろをついて行く。
ザザザザザザッ!!
風に煽られた木の葉が暴れて音を鳴らす
カァーーーカァーーーー
その音に感化されたようにカラスの鳴き声が鳴り響く。
「なんか本当に雰囲気あるよな」
「うん本当に……」
俺は周りをチラチラ警戒して見ながら歩く。
「やっぱり引き返すか?」
「いや、幽霊とか熊が出ないか警戒していただけだよ。」
「熊はわかるけど、幽霊なんて出るわけないだろ?」
その言葉に下を向いて考える。
(確かに意識しすぎも良くないよね……)
そう思って再び前を向こうとした時
ドンッ
俺は急に立ち止まった優雅の背中に鼻をぶつけた。
「いってぇ〜どうしたんだ?」
鼻を抑えながら目を開けると優雅のいる場所の奥に同じ歳ぐらいの少女がたっており、その少女が見ている方向には”立ち入り禁止の看板”があった。
「あの子は?」
俺がつぶやくと
「まさか幽霊!?」
と優雅の肩が小さく震える。
その少女は立ち入り禁止の看板の向こうへ歩き出す。
「ちょ、ちょっと!!」
俺が声を掛けても止まらず同じスピードで1歩また1歩と歩き出す。
「俺があの子を止めるから優雅はなにかあった時のために誰か町の人を呼んできてくれ!!」
それだけ優雅に言って俺は駆け出して立ち入り禁止の看板を超える。
優雅視点
「隼也!!」
(隼也は昔からこういう時、怖くても身体が先に動く正義感が強いすごく良い奴だ!)
でもだからこそ俺は隼也が心配だ……
気づけば俺の足は前へと動いていた。
隼也視点
(あと少しで追いつく!)
俺はその少女の肩を掴もうとした時、目の前からその少女は消える。
「えっ?」
(本当に……幽霊だったのか!?)
気づけば森がざわめき出す。
ハッと我に返って後ろを向いた。
(そこまで走っていないのに、真後ろにあったはずの立ち入り禁止の看板がない?)
「どうしよう?」
走り抜けた立ち入り禁止の看板が見えてくることを願ってしばらく歩き出す。
次第に歩くから走るに変化して同じ景色の森がしばらく続く。冷や汗が身体にまとわりつく感じに寒さと気持ち悪さを感じた。
「寒い…」
(冷や汗のせいか?)
心の中の不安の種が成長しきった時、何か建物が見えてくる。
安堵……
力んだ肩を落とす。
「今すぐ優雅にこのことを!」
(あの樹海はやっぱりおかしい!!もう誰も入ってはいけない気がする!)
だけど……その建物は何か雰囲気が違った。
見たことの無い不気味な握手を交わす石像が門の前に立っている。門の先は何もない。
「ここは、どこ?」
帰れるという期待が崩れ落ちて、呆然とした。
見たことの無い素材でできた家。
「ヒテヌンティ!!」
そんな聞いた事のない言葉が後ろから聞こえた。
「え…?」
(俺とそんなに見た目は変わらないのに、雰囲気が何が違う気がする。)
その子は服は紫色の布?でちゃんとした服を着ていた。
しばらく声が出なくて、その言葉を放った男の子は
「お前見ない顔だな。どこからきた?」
と言う。
「日本語が喋れるの!?」
俺はさっきの謎の言葉と違って知っている言葉が飛んできたことに心が落ち着く。
「にほ…ん…ご?なんだそれ?なんかの植物か?」
「いや…」
(とにかく同じ言語だということが何より嬉しい。)
「ここはどこなの?」
「ここは”コウゲツムラ”だ」
「なんにも知らないんだな、お前。俺がムラを案内してやるよ!」
(この子もあの少女みたいに幽霊なのかな?)
そう不安がりながらも案内してもらうことにした。
「お前どこから来たんだ?」
「向こうの森から……」
俺は歩いてきた森を指さす。
それに男の子はフッと笑って。
「馬鹿言え…あっちは川だぞ?”一人”なのにどう渡ったんだ?」
「え?」
(やっぱり神隠しにでもあったのかな?)
そう思うと鳥肌が立つ。
門の手前で急に歩くのを止めて
「そういやお前”イエ”は?」
と聞いてくる。
「家?田向村にあるけど…」
「タムカ?変なイエだな?俺はサキト!よろしくな!」
と手を差し出してくる。
(あれ?”イエ”って名前って意味なのかな?それじゃあ俺の名前はタムカってことになっちゃったのか…)
と思いながら。
「よろしく!」
と握手を交わす。
次の瞬間俺の足が地面から離れる。
「え?俺死んじゃったのか?」
「何驚いてるんだ?この世界は”フレン”を力に変換して様々なエネルギーとして使えるだろ?」
「”フレン”?」
「相手から認められる、仲良くなった力、つまり”フレン”が高くなるほど、その力はあらゆる出来事に応用できる。当然だろ?」
「お前も実際に飛ぶ力に変えられてるじゃねえか。」
「俺、本当に飛んでいるのか?」
驚いて出た言葉はその一言。
サキトの話を聞くにやっぱりこの世界は俺がいた世界とは違う世界らしい。仲良くなった力…。
「つまり友達になったってことでいいのかな?」
そうつぶやくと
「トモダチってなんだ?」
「かけがえのない大切な存在かな?」
「それはまだ早いんじゃないか?」
(確かに…まだ会ったばかりだな。)
そんな会話をして、ほら行くぞと言うみたいにサキトは空を飛んで門を潜る。
混乱しながらも見失ったらまずいと感じてそれにサキトについて行く。
何もない門を潜るとそこには大きな街が広がっていた。街の真ん中には大きな塔が立っており、周りは海に囲まれていた。
(ワープしたみたいだ!)
この時、優雅ならもっと興奮して喜ぶだろうなと考えてしまった。
街では誰もが空を飛んで移動していて、何も無いところから水がでてきたり、直接掴んでいないのに物を自由に動かしたり、俺からしたらまるで魔法の世界だった。
(これも全部フレンっていう力なのかな?)
そこで俺は違和感に気づく。
「うん?俺落ちてる?」
さっきと違って自由に飛べない上に徐々に地面に向かって落ちている。
やがて完全に浮遊する力が無くなって落ちる。
(握手をしたっていう一時的な友情で生まれた”フレン”だったから力が足りなかったのか?)
などと考えるけどここから助かる未来が見つからない。
(俺…こんなよく分からない世界で死ぬのか?)
そんなのやだ…目から涙が溢れ出てくる。
視界が涙でぼやける。
「タムカ!!」
サキトが気づいて戻ってきたみたいだ。
でも間に合わない…
そう確信する。
(助けて…!!優雅!!!)
幼なじみで昔から一緒に遊んでいた優雅との思い出が脳内に浮かぶ。
川で溺れかけた時助けてくれたあの時、遠足でお弁当を忘れて分けてもらったあの時、小学校の卒業式で一緒に泣いた時、沢山の思い出。
俺の身体は…地面スレスレで浮きだす。
その時気絶している優雅が複数の人に囲まれて連れていかれる映像が脳内で流れる。
(今のは?優雅?この世界に来ているのか?)
「タムカ!無事か!?」
「ああ…何とか」
「良かった、それにしてもお前凄いフレンの量だったな!力を隠しているのか?」
興奮して俺に質問するサキト。
「サキト〜!!」
遠くから誰かがサキトを呼んでいる。
「おう!サイネ!」
「何してるの?さっきのフレンはもしかしてサキトの?」
「いや、こいつが…」
「…顔色が悪いぞ?どうしたんだ?」
サキトがサイネと呼んだその少女はあの、あの樹海で俺が追いかけている最中に消えた。
あの少女だった。