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第二話 婚約破棄を叫ぶ友へ

 帝国歴七八四年五月三日。


 双丘の信仰者――ドミトリー・ベル・ベントリッツォ殿へ。


 お手紙拝読いたしました。


 春は、色とりどりの花が咲誇り、目うつろいしやすい季節です。特に公子の眼の前をぽよんぽよん、と双丘が揺れ動くものなら周章狼狽するのも分からぬことです。辺境伯として冷静沈着が身に染みてきた私とて、帝都で公子と一緒に帝国貴族学院に通っていたときは、様々な花に心を乱してきました。そのことは友である君が一番近くで見てきてよく知っていることでしょう。


 学院時代、私の心を奪った花々を。


 武門の棟梁サジタリ子爵家のフローレン。凛とした佇まいからたまに見せる幼い仕草や零れた笑顔は、私の心臓を貫いた。その顔が見たくて私は慣れぬ武器を片手に握り、残る片手に花束を携えて彼女に対峙した。

 結果として、私は貴族学院でも有数の剣の使い手となった。


 言葉を武器に外交を得意とするスコルピオ子爵家のミリオニア。誰よりも明るく朗らかな彼女は誰にも好かれていた。だが、太陽だってときには陰るものだ。私は彼女が私だけに見せる陰のある表情やわがままに、私は髪を振り乱して願いを叶えるべく奔走した。

 結果として、私は貴族とは思えないほどの脚力を得た。


 有力な商家の娘のキリア・キャニスター。名門貴族ではないと学院で自信なさげに俯いていた彼女が、私の語る変幻自在の百万の言葉によって、貴族である私に心を開いてくれたときは、百万の黄金を積み上げたように嬉しく。

 結果として、私はひどくお喋り上手になった。


 ほかにも多くの花々が帝都には咲いていた。

 私が恋に落ちるたび、公子とヘリックスは彼女らの膨らみの論評ばかりしていました。おかげでに私は公子が双丘をどれほど信仰しているか知っています。だから、今回の話をヘリックスから聞いたとき、私は心配しました。公子が愛ではなく、信仰に膝まづいているのではないだろうかと。


 ヘリックスがそうだ。


 私たちの共通の友人であるヘリックス・ベル・ベンゼンは稀代の人妻好きだった。彼は人妻という前提があればすぐに愛を囁いた。そして、人妻たちが人妻でなく、ヘリックスの恋人になるとすべての熱量を失い。次の人妻を探していた。ゆえに私はヘリックスの言う愛は信仰であり、愛ではないと、断言する。ヘリックスという悪友を例にして、君までがそうなると困ると、私は思っていた。


 だが、それは杞憂だったらしい。


 君からの手紙には、きっかけは信仰であっても君が愛に到るまでの物語が書かれていた。私はその内容にときに笑い。ときに泣いた。とくに君が真実の愛に気づいたというくだりは、何度も読み返すくらいに感情を揺らされた。


 公子がここまで愛を向ける女性というのはきっと素晴らしい女性なのでしょう。


 ゆえに公子が満目荒涼の凹凸の少ない婚約者を見捨てて、双月の女神に求婚する、というのはまさに真実の愛ゆえにだろう。一方で、君と平坦直線の彼女との婚約は家同士が決めたもので、愛ではなく権勢が結んだものだ。この権勢の糸と言うのは難解で切り難く、妙な粘着性がある。私のようなろくな権力のない辺境伯であっても継ぐにあたっては親類縁者に根回しと挨拶。いささかの金を振りまく必要がありました。


 それが大公家と侯爵家の関係だ。真実の愛という一言で婚約破棄を正当化させようものならあげ足どころかあげ腕、あげ尻、あげ頭と全身をとられるだろう。


 だから、いくつかの助言をします。

 婚約破棄を叫ぶなら、ハミルトン侯爵息女エリーのことでもハミルトン家でも構わないから、悪事を追及するべきだ。どんな人でもどんな家でも清廉潔白ではない。清すぎる水には魚が住めないのと同じで、悪事はあるものだ。


 決して君がレンセント子爵息女ラビニアに恋に落ちたからとは言ってはいけない。

 悪事を許せないから婚約を破棄する、と正しさに訴えるのです。

 正しさは騎士の盾だ。君は真実の愛を高らかに叫びたいだろう。だが、真実は盾にはならない。


 君の婚約破棄が上手くいくことを祈っている。



 真実の愛を信じる者 アーチミティア辺境伯アキレウス・ベル・アーチミティア。

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― 新着の感想 ―
犯人はお前かwww
メロスは激怒した かの邪智暴虐な双丘主義者どもを除かねばならぬと決意した
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