あの回路
僥倖だと言ってよいだろう。
息子の乗艦がこの中立コロニーに寄港したのも、私の生存を知り訪ねてきてくれたことも。
自慢の息子だ。いまや軍のトップエース、いや、ウルトラエースだ。旧世紀のハルトマンとかルーデルに比肩すると思うのは親の贔屓目ではないはずだ。
しかも、私が設計開発に大きく関わった機体でだ。
誇らしい。
だが、私の所見ではあの機体の性能の底がみえはじめている。早晩息子の技量頼りになるだろうし、いずれ息子の操縦操作についていけなくなる。
そもそもカテゴリーごと黎明期の機体だ。陳腐化は早い。
目先の改良ができるエンジニアに心当たりがある。優秀な後輩だ。
機体制御にパイロットの思考を読み取り反映させる機構のアイデアも持っているし、なんなら回路設計までできている。
だが、私が直接乗り込んで紹介したり改修の指揮をとることはできない。
今ここで生き延びているのは私が酸欠症で思考、判断能力を損なっていることになっているおかげだ。
もし、私の頭脳が正常を取り戻していると知られれば。敵は私のヘッドハントや拉致を試みるだろうし、母国はそれを許すくらいなら私の暗殺処分も辞さぬだろう。なんなら、いまこのときですら両陣営の諜報員がここを見張っている。
私は一計を案じた。
旧式の記憶モジュールに改修案とそれを実践できるエンジニアのリストを記録し、息子にたくすのだ。
息子の機体のコンピューターに接続すれば、機体制御系のプログラムを更新すると同時にハードウェアの改修案とエンジニアリストも読み取る。
試作機をエース機体として運用できる優秀なメカニックならすぐに気づくだろう。
「こんなもの!」
ぽーい