表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
聖剣の勇者 -復讐の焔竜姫-  作者: 96500C/mol
【覇】のグラム
69/74

#1

七聖剣最強の剣士、天路アスカを下したエリザベスは、ついに家族の仇、天路アキラにたどり着く。


 フィエルとアスカが消え、私は地面に転がっていたアスカの左腕を拾った。

 まだ微かに体温がある。肌は柔らかく、撫でてみるとさわり心地は絹のよう。私はかぶりつきたくなる気持ちを必死に抑えた。


「追わんのきゃ? アスカちゃんとフィエルちゃんこと」

「放っておきなさい」


 くすくす笑いながら話しかけてきたバイリンに応える。


「バイリン。今の貴女は、私の味方なんでしょう。フィエルの聖剣の力を貴女が封じている限り、もう手出しはしてこないはず」


 能力を切ると、私はいつもの竜人の姿に戻った。

 すかさず駆け寄ってきたファルが、私の体に抱きつく。私もそれに応じ、抱きしめ返した。


「リズさま……」

「ファル。貴女はまったくもう……無茶なことして」

「申し訳ございません。ファルは、リズさまの下す罰ならば、どんな罰もお受けします」

「いいでしょう。ではファルシア・ファーヴニル。貴女には罰として私の道具になってもらいます」

「道具、でございますか」

「ええ、そう。私が『殺せ』と命じたら殺し、『守れ』と命じたら守る。意思を持たずに働く道具よ」

「はい、リズさま。ファルになんなりとご命令ください。ファルはリズさまの道具です」

「よろしい」


 ぎゅっと抱きしめると、ファルはぬくぬくと暖かかった。

 生きている。生きてくれている……それだけで、今は嬉しい。

 私の手は、命を取りこぼすばかりの手だったから。このぬくもりだけは、最後まで失いたくない。


「おねーさん、おねーさん。ウチ、ちょっと提案(てーあん)がありゃぁすの」


 バイリンが手招きをしている。

 私は持っていたアスカの左腕をファルに預けた。空間拡張で何でも入れられるファルのポーチは、腕をしまっておくのに都合がいい。


「このまま新大陸を旅してアキラくんを探すんな、非効率じゃにゃぁのって思うんよ。

 ほんでなー? ウチ、おねーさんとアキラくんのために、決闘場を用意したろて思って」

「決闘場?」

「そそ。アキラくんとおねーさん、二人が巻き添えなんか考えんで、本気で戦える場所やよ。どーでしょ」

「ええ、いいわ。その場に天路アキラも呼び出して、存分に殺し合おうってわけね」


 バイリンが指で空間をなぞると。

 虚空が切り裂かれて、異空間に繋がる穴が出来る。バイリンのセンジュツっていうのは、魔法よりももっととんでもないことができるらしい。


「さあ、行きましょうかファル。これが最後の旅よ」

「どこまでもお供します。リズさま」


 大きく広がった空間の穴に、バイリンの後を追って踏み込んでいく――――



   ★   ☆   ★



 私たちの目の前に広がっているのは、奇妙な土地だった。

 白や灰色をした、真四角の塊がどこまでも広がっている。空気は淀んで煤けていて、鳥のさえずりも吹き抜ける風の音もない。あるのはゴウゴウ響く重低音と、雑踏の足音だけ――――


「バイリン、ここはどこ?」


 隣にいるバイリンに問う。


「どこって、決闘場やよ?」


 何を当たり前のことを聞くんだ、みたいな顔をするバイリン。

 決闘場、なんていうから舞台のようなものでもあるのかと思ったけど。ここにあるのはどう見てもそういうのじゃない。目の前にある手すりに触れてみると、それは木製どころか石ですらない。剣のような――――手すりは金属で出来ていた。

 

「ああ、そっかぁ。おねーさんはこの国に来んの、初めてやったねぇ。

 ここな、『日本』いうんよ」

「二ホン……?」

「うん、日本。まあ簡単にいうとやねぇ……アキラくんの、故郷!」


 故郷。転移者に故郷なんてあるものか。

 だって彼らは違う世界から来るんだから――――そこまで考えて、私は目の前の街並みに目を見開いた。


 違う世界。

 ここは私が知っている、どこの国とも似ても似つかない。それが、そもそも「世界」からして違うのだとすれば。


「リズさま!」


 私の隣で手すりから顔を出していたファルが、手を伸ばして何かを指さしている。


「人、人がいます! あんなにいっぱい!」


 ファルの指さす先に目を凝らす。

 確かに人がいた。変な格好をした人間たちの頭、頭、頭。両手も広げられないほどにひしめき合っている。

 亜人種はいない。一人残らずヒューマン族だ。市場の混雑にしては、今は日が高い気がするんだけど。


「まさかここって、本当に……」



「そう! ここはおねーさんのいた世界とは違う世界。アキラくんが生まれて育った、『異世界』やよ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ