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聖剣の勇者 -復讐の焔竜姫-  作者: 96500C/mol
【鉄】のツヴェルゲンシュタール
30/74

#9

 ドラウプニルはファルに返され、私たちはオリヴィアの砦を出立した。

 採集を依頼されていたキノコについては、遅れてしまったけれどオリヴィアがどっさり土産として持たせてくれたので報酬は失わずに済んだ。


 それから数日、スルヴェート城に向かうために幌馬車と御者を雇い街を出る私たちの前に、オリヴィアとノーラが現れた。

 相変わらずのだぼだぼの服、それに巨大な戦鎚、【雷】の聖剣「フルクトバーレン」を肩に担いで。

 以前と変わっているのは、ノーラがその背に巨大なリュックを背負っていることだった。


「リズ姉さん」

「オリヴィア。見送りに来てくれたの」

「ううん。ボクも旅に連れて行ってもらおうと思って」


 振り向くと、ファルは不満そうだったけどユズリハはニコニコ笑っていた。構わないよ、ということらしい。

 街道を進む馬車の中、オリヴィアはずっと私にくっついていた。右手にファルシア、左手にオリヴィア。そして目の前にいるユズリハはにやにや笑ってその様子を見ている。


「リズさまから離れてください」

「別にいいだろ。ボクは深刻な『(アネ)ニウム欠乏症』なんだから」

「「「姉ニウム欠乏症⁉」」」


 そんな病名、聞いたことないけど。


「オルガ姉さんに集落に置いて行かれて、ボクはずっと寂しかったんだ。姉さんに似せた魔導人形を作ってみたけど、結局寂しさは薄れなかった。

 所詮、魔導人形では姉ニウムは摂取できないんだ。オルガ姉さんとそっくりの『戦乙女シリーズ』じゃ、姉さんがいない寂しさが強くなるばっかりだった」


 度々里帰りするオルガに、その度に「戦乙女シリーズ」の完成度の高さを褒めてもらうのが、オリヴィアにとって鍛冶師の夢を目指す原動力になっていたという。

 姉亡き後、原動力を失ったオリヴィアの夢はあの砦で歩みを止めていた。


「留守はノーラに任せたよ。彼女には人間の里には干渉せず、仲間の維持と整備だけをして、ひっそりと砦を守っていくように命令しておいた。

 ボクは姉さんを殺した犯人を探すつもりだ。復讐は……たぶん、まだボクは悩んでいる。ボクはまだ子供のままだしね」

「オリヴィアは復讐のことなんて考えなくていいよ」


 ユズリハが優しい口調で答えた。


「オルガさんの仇なら、わたしにとっても仇だよ。絶対に捕まえてみせる」

「うん。助かるよユズリハさん」

「……『ユズリハさん』かぁ」


 ユズリハが馬車の中で改まって座り直し、オリヴィアに膝を向ける。


「わたしだってオルガさんのことは血のつながらないお姉ちゃんだって思ってたし。それってつまり、オリヴィアとも姉妹ってことだよね?

 どうかなオリヴィア、わたしのこと『お姉ちゃん』って呼んでみない?」

「……ユズリハ、貴女そんな趣味があったの?」

「えー。だってわたしのほうがエリーさんよりオリヴィアとの付き合いは長いんですよ? 実質わたしだってお姉ちゃんみたいなものでは?

 ね、一回だけ、試しでいいから! 『お姉ちゃん』って!」

「やだ」


 オリヴィアはよりぎゅっと私の腕に掴まり、ユズリハの提案をたった二文字の言葉で一蹴した。


「なんで⁉」

「ユズリハさんは姉ニウム出てないから」

「何その理由⁉ まずその『姉ニウム』が良く分からないんですけど⁉」

「リズ姉さんの『姉ニウム』は天然ものだからね。こんなに良質の『姉ニウム』を出している人はなかなかいない」

「そうね。本物の妹持ちにしか『姉ニウム』は出せないでしょうね」

「ずるいなぁ、ずるいなぁ! あ、そうだ。『ずるい』といえば。

 オリヴィアはどうしてエリーさんのこと『リズ』って呼んでるの?」

「そう呼んでいいって言われたからだよ」とオリヴィア。

「ファルちゃんも『リズさま』って呼んでるし」

「はい。ファルはリズさまの家族ですから」とファル。

「じゃあ私も……!」

「貴女はダメ」私が答える。

「なんでぇ⁉」


 私もオリヴィアも笑った。

 小さいころは、シンディもよく笑う子だった。それに加えて寂しがりやで、よく一緒に寝るようにせがまれたっけ……そんなことを思い返す。

 ずっと記憶の底にしまっていた。大事に、大事にしまっていたから、今まであんまり表に出てこなかった、家族との幸せな記憶――――


「こいつとは寝室別にしてくださいね、リズさま」出し抜けにファルが冷たく言い放つ。

「いいじゃないの、寝室くらい」

「だってコイツ――――」


 しれっと、ごく当たり前のことであるように。

 ファルは衝撃的な事実を明らかにした。


「――――()じゃないですか」



















 え?

 ユズリハに目配せする。ユズリハは目が上下左右、あっちこっちに泳いでいた。

 なんだその顔は。混乱してる? 自称お姉ちゃんのする顔じゃない。


「そうだけど?」


 オリヴィアがファルの指摘をあっさりと認めた。

 雷に打たれるような衝撃が、私とユズリハの脳天を直撃する。


「「えぇーッ⁉」」


 オリヴィアの着ているだぼだぼの服はどう見ても女性用――――そう、「だぼだぼ」なのだ。

 なんで丈のあっていない服を着ているのかといえば、理由は単純明快。


 彼女、否、彼が着ている服が女性用なのは、それが姉オルガの遺品だからだ。

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