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石川家襲来


 前日のオイタが過ぎて翌日の朝日が黄色く見えてグダグダ・・・などと言うのは、正直()()()()()()()()若い頃の遠い思い出である。


 年齢が進むにつれて太陽が普通に見えるのが、ありがたいと思うようになった。


 現在29歳を目前に控える独身男、神谷祐一は寝起きのままボーッと窓の外を見る。



「天気いいな・・・」



 パジャマのままで窓を開けて布団を手摺に放り出す祐一。


 所帯くさい? とか自分で思いつつ洗濯物をベランダに干し、珈琲をドリップしながら煙草を一服する。


 食欲が無ければそれで終りだし、腹が減っていたらバタートーストでも食べる。


 あとは音楽でも聞きながら軽く掃除機をかけて、買い物か散歩。


 それが彼のいつもの休日、愛すべき朝のルーティンだった。


 そう。昨日までは。








「なかなか、独身にしては片付いてるねえ~」


「2LDKなのか。これ」


「コーヒー入れておねがーい♡」


「お姉ちゃん、ズルーい! 私もこんな彼氏がいい~!」



 何故か、石川ファミリーが祐一の家に勢ぞろいしている。


 つまり祐一の勤めている会社の会長と社長夫婦とその娘2が、彼のマンションのリビングでそれぞれ好き勝手にウロついているのである。


 そして、娘その2は珈琲をドリップしている彼の腰に後ろから手を回して、離れないので非常に鬱陶しい事この上ない・・・


  因みに麗奈は、この錚々(そうそう)たるメンバーの中には含まれていない。


 多分彼女は祐一と同じ様な、休日の朝のルーティンを自宅のマンションでこなしているのだろう。


 一人暮らしなんて、やる事は大抵同じようなものだ。



「美奈、アンタ祐一君がコーヒー入れられないじゃない。離れなさい」



 ベリッ! という効果音が聞こえそうな勢いで女神が麗奈の妹、美奈を祐一から引っ剥がす。



「ゴメンね~この子何でもかんでも麗奈のモノを欲しがるのよね。ホントにもう」


「はあ」


「ママひどーい、何でもじゃないもん。アタシの好みのモノだけだもん」


「余計悪いわ」



 女神が美奈という子の両頬をビヨ~ンと引っ張る。



「いたぁーいヤメテ!」


「・・・」



 そうか、昨日の麗奈の今一つ不似合いな行動はコイツのトレースか。それで不自然だったんだな。



 納得の祐一である・・・







 

 事の起こりは、洗濯物を干して部屋に入った時に入って来たLINE。



 ピコンー

愛『午前中にお邪魔していい?』


 『ダレ?』


 ピコンー

愛『女神デース』


 『あー? いいですけど』


愛『麗奈から連絡は? 』


 『ないですね』


愛『じゃ、今すぐ行くね~~』


 『はい』



 LIM終了後10分で祐一のリビングはこの有様。


 ドアを開け『はやっ』っと言った時の彼が顔面蒼白だったのは、まあ想定内である。






「経理課ということは、大塚の直属だな」


「あ、はい」



 アー●ルド・シュ●ルツ●ッガーの如く、ガタイのいいオッサン、よく見たら男前だが目つきが鋭いので女子社員から若干怖がられているらしい、石川隼雄46歳。


 イシカワ・コーポレーションの社長である。



「隼雄そう睨まないの。ねえ、神谷君。君の入れたコーヒー美味しいねえ。僕の秘書にどう?」


「いや、あの」



 ちょいお茶目系。白髪に銀縁眼鏡、スリムな体型で女子社員の間でファンクラブがあるという噂もある、石川辰夫70歳。


 イシカワ・コーポレーション会長。



「ソレよりアタシの彼氏になってよ~」


「間に合ってます。他を当たってください」


「え~ひど~い!」


「・・・」



 クリンクリンの髪の毛をポニーテールにしていて、茶髪に青目でコレは日本人じゃないでしょ?! と言いたくなる美少女、石川美奈18歳。



「美奈! お姉ちゃんの彼氏にコナ掛けないのっ!」


「・・・」


「だって~」


「アンタ、そのままじゃ悪役令嬢だよっ」



 金髪美女。職業女神。その他は絶対に知らないほうが無難に生きていける。うん。


 麗奈の母で社長夫人、石川アイーシャ。



 これが、麗奈の家族である。


 本来、会うの早すぎじゃね? と思うのだが、昨日のアイーシャの突撃御宅訪問が他の家族にバレてしまい、じゃあ全員で会いに行こう! という事になったらしい。


 超迷惑・・・



「ねー、それでさ、お姉ちゃんとまだお付き合いはしてないんだからフリーでしょ? アタシでもいいじゃん~」


「いや、未成年は興味ないし」


「ホンのチョビっと若いってだけじゃん」


「こら! 美奈。アンタこないだ彼氏できたーって言ってたでしょうが!」


「え~、アイツおとーさんに会ったらビビっちゃってダメダメなんだもん。別れちゃった」


「・・・」


「おとーさん、すぐに男の子脅すんだもん! このままじゃアタシ行き遅れになっちゃうよ」



  ぷ~っと頬を膨らませるミナ。



「別に脅したりしてないぞ。名前と年齢と職業を聞いただけだ!」


「おとーさんだと職務質問みたいじゃん!」


「「「・・・・・」」」



 ――うん、まあ、そうだろうね。その彼氏の気持ちが、俺はよくわかるよ。俺は会社で何回も社長見てるから免疫があるからいいけど、若い子じゃ無理かもね。



「その点祐一さんは平気っぽいじゃん、だから取り敢えずアタシの彼氏になって〜♡」


「え、無理。未成年は守備範囲外です 」


「ひどーい!」


「キッパリしてるねえ~。僕もこの子気に入ったよ」


「うむ。大塚の直属でいられるだけでも根性がある。というか、お前が実際の責任者みたいなもんだろう。決済書の判子が偶に大塚のは抜けてるが、お前のは確実に押されてるからな。訂正印も偶にお前のやつが入っとる」



 ――うわ、部長バレてますよ。



「他はどうあれ、経理課だからな。俺も目は必ず通す」


「・・・」


「やっぱり秘書においで~」


「パパ、ダーリン、ソレより麗奈よっ! あの子、もう21歳になるんだからコッチに居られなくなるじゃない!」


「おお、そうだった」


「そうだな」


「えー、アタシでもいいのにぃ、痛っ!」



 女神が、空手チョップした。




 彼等によると、麗奈や美奈は本来こちらの世界で暮らすのには一定の条件があるのだそう。それが伴侶。


 その伴侶を成人後5年以内に遺伝子レベルで相性の良い相手を()()()の世界で見つけて婚姻を結ぶこと。


 でないとこちら側の世界で住むのは、許可できないんだとか。


 因みに成人とは、異世界(あっち)基準となるため16歳なんだそうで・・・



「ええー! あと半年ちょっとしか時間が無いじゃないですかっ! 誰が一体そんな面倒くさい決まりを・・・」


「こっちの神様連中よ~」


「・・・ケチくさいですねえ」


「ホントよ」



 コーヒーカップをソーサーに戻しながらムーッとする女神様



「まあ、麗奈と美奈は女神と人のハーフだからなあ、アイーシャの条件とは違う形になるのは仕方無い」


「はー、なるほど」



 ――全然分からんけど・・・



「女神と人とのハーフだと、異世界(あっち)で神格を一度上げて、コチラに来たほうが確実なのよ。そしたら年齢制限なしになるし、伴侶も女神と相性のいい相手じゃなくても選び放題なのよ。こちらの世界って神格上げるような出来事自体がないから」


「神格を上げる出来事とは?」


「世界を救うとかよ」


「あ、はい」



 ――確かにそれは少なそうだ。



「アタシは別に異世界に行って女神になっちゃっても構わないんだけどさ、パパがねえ」



 ふう、とため息をつく美奈。


 チラッと見ると部屋の隅でショボーンとしている社長が見えた。



「因みに、何もしなかったらどうなるんですか?」


「確実に異世界に強制送還かな。向こうの世界は神様不足してるからね。逆にこちらは神様が多すぎでオーバーしてる。だから、こっちに来ると人として生きる事ができるのよね」


「?」


「つまり一緒に歳を取るってことさ」


「・・・?」


「愛してる人に先に死なれてずっと永遠に生きるのって、しんどいって思わない?」



 女神が花が咲きほころぶような笑顔を見せた。



 ――ちょっとだけ女神様がカッコいいって思ったのは言わないでおこう。


 

 と、思った祐一である。







「ところで、《《あっち》》の世界でアイーシャさんがあげた功績って何なんですか?」


「ん? モチロン、女神にスカウトされた勇者の俺が魔王を倒した」



 祐一が白目になったのは、お約束なのである。








その頃・・・・



「なんて事をしちゃったの!?」



 幸せな気分で一晩ぐっすり眠り目が覚めたのは良いものの、麗奈は真っ青になっていた。


 なんてったって一番自分とかけ離れてる妹の真似をして、祐一にアプローチしてしまったという事に気が付いた所である。


 そりゃあ青くなるよねー。


 しかも・・・



「恥ずかし過ぎるぅ~」



 顔を両手で覆って俯いた。


 耳まで赤くなっている・・・



 穴があったら入りたい気分のようである。


 アレは仮の姿だということを祐一は既に気が付いているが、でもそんな事情など知らないレナは、どんどん羞恥の沼にハマっていくのであった。



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