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石川さんちのママ


 出来立てホヤホヤの高校生カップルのように、顔を赤らめてお互いにモジモジしていると、麗奈の鞄の中からスマホの着信音がした。


 メチャクチャ、タイミングイイよね。



「あ、電話。多分お母さんです」


「ああ、早く出てあげて。俺、台所片付けるから」



 席を立つ祐一。


 なんかえらく急な展開にちょっと頭がついていかない感じなので、この辺で整理しようと思いつく。



 ――今、部屋に9つ年下の女の子が来ていて一目惚れしたから、結婚してくださいってプロポーズされてソレを自分は了承してしまった? という所だよね。うんよし。


 あれ? なんか棚ぼた式で美味しいのかな? でもお互いに今日初めて出会ったんだし、向こうは一目惚れだけど俺は? んん~~?


 惚れては無いなあ。でも可愛いとは思ってるのは事実だよね。



 スマホを耳に当てて何かを必死で説明している麗奈の背中をチラッと見てからもう一度考えてみる。



 ――彼女はウチの会社の受付の女の子で、ちゃんと入社試験と面接を受けてるはずだから基本的におかしい子ではないはず。その辺はあの会社シッカリしてるし。


 ただ、自分があんなに真っ直ぐ言い寄られたことが無いからなあ~正直驚くわな。


 今時あんなに直球ストレートで告白してくる女なんかいないよね・・・ 


 いや、嬉しくないわけじゃ無いけど慣れてないっていうか今までが今迄だったし・・・



 ちょっと6年前迄の恋愛事情とかを思い出してナーバスになりかかった時、



「ゴメンナサイ祐一さん」


「は? へ?」



 ちょっと泣きそうな表情の麗奈。



「え、どうしたの麗奈さん?」



 慌てて洗い終わった皿を食器乾燥機の蓋を閉め、リビングの床に座り込む麗奈に近寄る祐一。


 麗奈が、祐一の差し出す手を取って、



「お母さんが来ちゃった」


「?」



 と、言うと同時にリビング中にカッと眩しい光が満ちて、周りが見えなくなる。



「うわ、なんだコレ?! ヤバいやつか!?」



 思わず麗奈を抱きしめて光に背を向ける祐一。どっかの地下鉄であった事件を思い出したからだ。



「うひゅうぅ~♡」



 何か胸のあたりで変な声がしたけど全然見えないので分からない。


 パシパシと背中を叩かれ、ハッと目を開けると辺りは元通りになっていた。



「なんだったんだあれ?」


「ねえ、キミ、うちの娘が酸欠になってるんだけどさあ~」


「えっ?」



 胸のあたりで顔を真っ赤にして金魚のように口をパクパクしているレナがいた。



 ――あ、可愛い。



「あ、ゴメン。つい」


「いや〜お熱いねえ~〜いいじゃん、いいじゃん」


「?」



 後ろを振り返ると、背の高い金髪の美女が、ニヤニヤ笑いながらこちらを向いて腕組みをしている。



「あー、えーと、どちら様でしょうか?」



 思わず下出にでてしまう祐一。日本人代表。


 しっかりしろ、お前の家だよと突っ込んでくれる人はいない・・・



「君の家だから、そんなに下出にならんでもいいと思うんだけど~」



 ここにいたようだ。しかも不法侵入者本人。


 多分。



「まあ、いいや、中々いい感じの彼氏だねえ。麗奈しっかり。アンタ赤くなって口をパクパクさせてさ、まるで金魚だよ〜」



 手に持つ錫杖を床についてその上に両手と顎を載せながらジト目で、抱き合っている2人を見ている金髪美女。


 その眼差しさえなければ・・・まあ、眼福かもしれない。



「はじめまして。私、アイーシャ。石川アイーシャです。その子の母です~」


「え、麗奈さんのお母さん?」


「そうそう、似てるでしょ」



 そう言えば、髪が黒ければ麗奈によく似ている気がする。



「お母さん、急に来るなんて祐一さんが困るじゃないの!」



 レナが無事、息を吹き返したようである。



「だってえ、可愛い娘の将来の旦那さんなら将来の私の息子ちゃんだもーん。ソッコーで顔を拝みたいじゃんか~」



 ――将来の息子? へ? ええと、何か外堀埋められてない?!



 ちょっとたじろぐ祐一を他所に親子で口喧嘩が勃発中。



「急に来るなんて、非常識だよ! お母さん!」


「出会った当日に結婚を前提にお付き合いをしてくれとか言うヤツより非常識じゃないよーだ」


「靴も脱いでよ、日本家屋は土足厳禁だよ!」


「これ部屋履きだし~。それにココってマンションじゃ~ん」


「むうっ! マンションでもダメでしょ!」


「だから部屋履きだよ。スリッパだったら~」



 なんか不毛な言い合いである。



「あの~、麗奈さんのお母さん? なんですよね」


「あ、あそうそう、麗奈の母ですよー。キミ、この子にプロポーズされたんでしょ?」


「あ、はい」


「気になって会いに来ちゃった~。この子元々そういう積極的な性格じゃないからさあ、ママとしては気になって見に来ちゃったわけよ」



 そう言いながら麗奈の母は名刺を差し出してきた。



「あ、どうも」



 思わず両手で受け取る祐一。


 そして名刺には


『石川アイーシャ』という名前と、それよりちょっぴり小さい文字で『女神』という文字が記載されていた。







 ――女神、メガミ、めがみ・・・


 なんだろうな、ちょっと理解不能。あ、そういう会社とか。それとも役職?



 おーいしっかりしろ祐一、役職だとそのままだろうが。



 ――謎の声が聞こえる・・・



 台所で珈琲をハンドドリップしながら考えているが、脳内状況は全く進展しない。



 ――あの眩しい光だってよく分かんないままだし、大体何で麗奈さんのお母さんがここにいるんだろう? あれ? 確か玄関の鍵は閉まってた筈だよな? この人どうやって入ってきたんだ?!


 え、ひょっとしてホントに女神様???



 人数分の珈琲をコーヒーカップに注いで台所から直接カウンターに出し、リビングに廻って道板を天板に使ったローテーブルに運ぶ。



「あ、手伝います!」



 麗奈がピョコンと立ち上がり小走りでやってきて、カウンターに残っていた珈琲を運んできた。



「ありがとう」


「いえ、こちらこそ、突然巻き込んじゃってゴメンナサイ」



 ――巻き込む? 何か嫌な予感。



 祐一の表情が一瞬だけ曇るが・・・



「アハハハ、祐一クンだっけ。良いカンしてるっぽいね。気に入ったわ、アタシ」



 豪金髪美女、もとい、アイーシャさんに豪快に笑い飛ばされた。



「何か娘が晩御飯ご馳走になって、コーヒー迄出してもらっちゃってさ。見たところ1人暮らしの割には綺麗に片付けてあるしさあ。麗奈、アンタすんごいスパダリ見付けたんじゃないの? 当たりクジっぽいね」



 スパダリ? とは何だろう。


 頭の上にクエスチョンマークが並ぶ祐一を横目に温かい珈琲を口にする自称女神こと石川アイーシャ。



「コーヒーうまっ!」


「あ、どうもありがとうございます?」


「お母さん、恥ずかしいよぅ」



 麗奈が肩をすくめてゴメンナサイと小さい声で囁く。


 美人だが中々男らしいお母さんのようである。



「でさ、単刀直入に言うんだけど。祐一クン」


「あ、はい」


「キミ、麗奈に見染められた時点でウチの『婿養子』に決定だからさ~ 諦めてね」



 大輪の薔薇が咲いたような、輝く笑顔で自称女神に告げられた。




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