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公園で


 




 祐一の住む場所は会社から歩いて40分くらいの所である。


 公共交通機関を使うには近すぎ、徒歩だとちょっとだけ荷物が邪魔に感じる位の距離だ。


 いっそ自転車でも買うかと思いつつ気がついたら5年がすぎた。



 『まあ、いいか』



 この口癖でスルーするのが祐一の常である。


 コンビニの袋とカバンを一緒に右手に持ち歩き始める。


 公園を通り過ぎ、すぐグレーの壁が見えたら、そのマンションが祐一の自宅である。


 公園前でふと気になって子供用の遊具のスペースを見ると、動物の形のオブジェの辺りに人が立っていて、こっちに向かって手を振っている。



「?」



 目を凝らしてよく見るとさっきの受付嬢である。



「神谷さん~!」



 こっちに向かって歩いてきた。



 ――えぇ~。今さっき会ったばっかりなのに何で名前を知ってるの!?



 かなりびっくりしたが、かわいい女の子が自分に向かって声をかけてくれるのはちょっと嬉しい。



「えと、君に名前を教えたっけ?」



 ニコニコ笑いながら近くまでやって来た受付嬢。



「ビルの清掃の方に教えてもらいました。それより神谷さん、明日何処かにお出かけになるご予定とかはありますか?」


「え、い、いや?」


「わあ、良かった~。じゃあ明日、私とお出かけとかしませんか?」



 ――ちょっと待て。この子、今なんつった!?


 

「あ、名前、私レナ。石川麗奈です。今日はありがとうございました。初出勤なので、日報もどこまで書いていいのか分かんなくて。もういいって言って頂いて助かりました」


「あ、ああ。なるほど」



 ――んで、お礼にデート? そんなわけ無いよなあ。



「神谷さんは独身で彼女もいないって、清掃の方に教えてもらったので。デートに誘ってもいいかなあって」


「!?」


「いいですよね?」



 と言って白い綺麗な手を差し出してくる玲奈。



 ――石川って名字だよね、で麗奈が名前っつう事はハーフかな? いやソレよりも、良いのか?! イイのか? こんなんで良いの?!


 こんなに可愛い子がいきなり30手前のおっさんにデートとか言っちゃって。


 ドッキリじゃあないよね?



 思わず周りを見回す祐一。


 看板持ったスタッフもカメラマンも見当たらない。



 ――まーじーかー。



 ドキドキしながら白魚のような指に触れ、続けて戸惑いがちに手を握る。



「ええと、はい。宜しく?」


「はい、こちらこそよろしくお願いしますね。じゃあ、早速ですが神谷さんのお家にお邪魔させて下さい」


「!!」


「嫌ですか?」


「い、嫌じゃないけど、いやでも、今日会ったばっかりでそれはちょっと・・・」



 アタフタする祐一をみてクスクス笑ったあと、首をコテンと傾げて



「お願い♡」



 と言われてしまい思わず首をタテにコクコクと振るだけの赤ベコになってしまった祐一を、多分誰も咎めない。







 麗奈の前を歩いて案内をしようとすると、空いていた左の手に彼女の手が触れて自然と手を繋ぐ。



 ――この程度でドキドキしてしまう。中高校生か俺は!?



 別に異性と付き合ったことが無いわけではない。それなりに恋愛経験もあるけど、最後はいつだったかな~と思いを馳せる。



 ――最後の彼女は大学の頃だから、かれこれ6年くらい前か~。



 彼の就職後にお互い気まずくなり疎遠になってそのまま自然消滅した。


 よくある話だ。



「神谷さん、下のお名前は?」


「祐一です」


「じゃあ、祐一さんて呼んでいいですか?」



 下からニコニコして見上げてくる。


 まつげが長くて二重でパッチリしてたアーモンド型の目は綺麗なグリーンだ。泣きぼくろが色っぽい。


 ピンク色のプックリした唇を見てちょっとだけ生唾を飲み込んだ。



「あ、えと? うんまあ、いいよ」


「じゃあ、私のことは麗奈って呼んでくださいね」


「あ、はい」



 エヘヘと嬉しそうに笑うとエクボができる。



 ――うわあ、何だこれ可愛すぎる。犯罪じゃね? 


 大丈夫かな俺の理性?


 

「麗奈さん歳は?」


「今20歳です。今年の秋で21歳になります」


「俺、今年の春で29歳だから10歳近く違うし君から見たらオジさんでしょ?」


「ええぇ~? そんなことないですよ、優しいし、それに足めっちゃ長くてカッコいいですよ! 顔だって私の好みドンピシャです! それに」



 ――え? この子本気?



「声がめっちゃ好きです!」



 ――あ、来たよコレ、よく言われるやつだ~。声だけはイイよね~って学生時代から女子に言われてたヤツ。


 もう本気で声優でいいかなと思うくらいよく言われたんだよな。ん? 待てよ、この子顔も好みとか言ってたな!?



「えと、顔?」


「はい、顔!」



 ――わービックリ。 俺自慢じゃないけど、普通の顔ですよ。



「どこにでもいる顔でしょ?!」



 思わず苦笑いになる祐一。



「そんなことないです!! 目は二重で大きくて優しそうだし。鼻だって高いし、口の形も綺麗だし。笑ったときにへにゃって顔が子供みたいになるでしょ?! メチャ好みです!」


「・・・・・」

 


 ――まあよく、あの短時間でそこまで観察できましたねこのダサメガネ掛けて見えない筈の俺の顔のこと。正直言っちゃうとちょっと引くよね~可愛いから許すけど・・・ 


 イイのか俺?


「えーと、ソコまで褒められたのは初めてなんだけど」


「え、本当に? 皆見る目ないなあ。あ、眼鏡で顔が分かんないからかな? 前髪も長くて顔が半分隠れてるし」


「あー、長くなっちゃったよね。暫く散髪してないからなー」


「声は? 言われませんか?」


「あぁ、ソレはね・・・」



 実は祐一は会社の中では殆ど喋らない。


 ほぼ毎日、書類整理とデータチェックと判子で一日が終わる。昼は外で食べるし会社の中で会話するのは上司の大塚か同期の桜田くらいだ。


 第一男ばっかりの部署なので声が良かろうが悪かろうが、お互い気にも止めないだろう。


 会社に女性もいないわけではないが祐一の部署には一人しかいない。


 しかもパートさんで接触は、ほぼ無い。



「会社では言われないね。学生の頃は言われることもあったけどね」


「良かった。じゃあ、ライバルは今はいないって事ですよね!」


「・・・うん、多分? 」



 ――何だろうライバルって、何だかどんどん押されているような気がしてきたぞ?!



 

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