明日で出会って3日です!
そんな感じで。
撮影大会の終了間近に
「うおーい、翔吾! 祐一の嫁っ子さ見に来たぞー!」
門の外からガヤガヤと人の声が近づいてきた。
「あらまあ、爺ちゃん達が攻めてきたわね〜」
おほほほほと高笑いをする美沙。
「アタシの作品に平伏すといいわ爺共!」
腰に手を当て胸を反らす美沙。
横にいたアイーシャが笑顔の裏で
『美沙さん、美奈と同類かも・・・?!』
と、思っていたのは内緒である。
「いやあ~、これはこれは中々の別嬪さんだわー!」
「祐一は婿になるんなら慶次が後継ぎじゃなあ」
「祐一、でかした! 良くやった!」
口々に頭の真っ白な爺共が色んなことを言いながら、スーツ姿の祐一と花嫁姿の麗奈を取り囲む。
「お母さんは金髪美女じゃないか!」
「お父さんはガタイが良いねえ、神谷の『寄り合い』に入れるんじゃないかい?」
石川夫妻は婆さん達に取っ捕まったようである。
「石川の旦那から神谷の家猫が離れんぞい? よほど良い御縁なんじゃろうて」
「こりゃあいいのう」
爺さん婆さん達が両手を叩いて大喜びをしている。
「嫁さんには黒猫がくっついとるで」
「おお、よほど神谷の主に気に入られたもんじゃあ」
「美沙さんも綺麗な嫁さんで良かったのう!」
「そうなのよ〜! 張り切って花嫁衣装着せちゃったわあ! おほほほほ〜!」
美沙の高笑いが夕方近い空に響いていた・・・
「あのう祐一さん、いいんでしょうか?」
麗奈がおずおずと申し出る。
「いいと思うよ」
祐一が、座卓に置いた書類に万年筆でサインをしながらそれに答えた。
「明日の日曜日で出会ってたったの3日なんですけど・・・」
「濃い2日間だったねえ」
思い出し笑いをしながら、祐一に万年筆を渡される麗奈。
先程祐一がサインをし終わった白い用紙は『婚姻誓約書』つまり、婚約者として正式に契約する書類である。
書類の立合人サインの場所はこれでもかというくらい大勢の署名と捺印、中には血判まで押してある・・・忍者・・・
「どうも『寄り合い』の爺婆連中は、俺に見合いをさせるつもりだったみたいでさ、麗奈さんを連れて帰ってこなかったら無理矢理見合い相手の女性を嫁がすつもりでコレを構えてたみたいだね」
そう言いながら、苦笑いをする祐一。
「えええ、そんな事って有るんですか?!」
「まあ、神谷の『寄り合い』は血統を重んじるような所があるからね・・・だから実家に帰るのを極力控えてたんだよ」
彼は、天井を見上げ遠い目になる。
「なんせ年寄りなだけに妖怪並にしぶとい『忍び』ばっかりだからさ、電話で実家に連絡した途端に俺が帰省する事がバレちゃってさ、何もかも勝手に段取りしちゃうんだよ」
麗奈の方を向いて、更に苦笑いを見せる祐一。
「だからさ、麗奈さんも、俺と結婚なんかしちゃったら絶対に逃げられないよ? それこそ異世界に逃げたって妖怪みたいな連中が追っかけて来るからね。勿論俺も追っかけるけどさ」
柔らかく笑う、祐一の顔は眼鏡無し! なので甘さマシマシである。それを見て余計に照れてしまう麗奈なのだが、
「望むところです! 私だって絶対に祐一さんを逃しませんからね! 覚悟して下さいっ!」
そう言いながら・・・
顔を真っ赤にして書類に一生懸命サインする麗奈を微笑みながら見つめる祐一なのであった・・・
「ねえ〜、お祖父ちゃん」
「うん? 美奈どうした」
両親が、2人揃って祐一の田舎に行ってしまってお留守番の美奈と会長である。
デカい3人掛けの猫脚のソファーにゴロゴロと寝そべってスマホを見ていた美奈だが、
「あの2人ってさあ、ホントに結婚するのかなあ〜」
「するんじゃないの?」
「えー、なんでよ〜」
美奈は辰夫の返事に不満そうである。
「あのねえ、ピピっときて、10分毎に出会ったばっかりの人を思い続けるなんていうのはさ、もう奇跡に近いんだよねえ。美奈はそんな相手いた事ある?」
紅茶を上品に飲む辰夫。
「ん~~ 無いかなあ。初恋のNinjaグリーン様だって祐一さんに会うまで忘れてたし、お付きあいしてた男の子達は皆んなあっちからアプローチしてきたからさあ〜・・・」
天井を睨みながら思い出す美奈。
「でしょ?」
ニンマリ笑う辰夫。
「君のママはさ、隼雄を異世界に召喚した途端にその状態になっちゃってさ」
「へえ~」
「会って直ぐにプロポーズして」
「え?」
「逃げ回ってた隼雄をたったの2日で陥落して」
「えええ?」
「たったの1年足らずで隼雄に魔王を倒させて、強引に結婚しちゃったんだよね〜 あはははは」
「ええええええ? そんなの聞いてないよ?」
寝転がっていたソファーから転がり落ちそうな勢いで飛び上がる美奈。
「だからさ、僕は会ったその日にプロポーズしちゃった麗奈を祐一君が実家に連れて帰った時点で決定だねっ! て思ったんだよね」
「そうなんだ・・・」
呆然としている可愛い顔の孫娘を見ながら
「まあ、美奈もそう云う相手に会えたらわかると思うよ。好きとか嫌いとか関係なく、『絶対にこの人!』って瞬間が来るからさあ〜」
と言うと、
「そうかなあ〜・・・」
自信無さげに首を捻る美奈。
だけど辰夫は知っている。
好きとか嫌いとかは後から付いてくるもので、会った瞬間から気になり続ける1人がきっと運命の人なんだよ、と。
辰夫は再び優雅にゆっくりと紅茶を口にした。