麗奈の想いと祐一の秘密
「私としては、祐一さんを見た途端に『この人!』が自分の求めていた人だという確信があったんです」
指を絡める様にモジモジとし始める麗奈。
「でも、祐一さんはそうじゃないと思うんですよ。でもタイムリミットは半年とちょっとくらいしかないし、誕生日過ぎたらコッチで女神になっちゃうんで年齢が止まってしまうから・・・」
「え、止まっちゃう?」
――そういやあ女神が永遠を生きるって言ってたな・・・
「だったら、祐一さんに神格を上げるのも手伝ってもらって、こっち側でデートして私の人となりを知ってもらったらいいかなと思ったんです。そしたら私が半年後に強制送還されても、祐一さんが40歳位の頃にはあっちに戻れるんじゃないかと思いまして・・・」
「え・・・?」
――俺は、40歳の時に21歳の嫁を貰うの・・・? 違うか、婿養子だった。
いやいやいやいや、そうじゃなくて。
「神格上がったら、俺じゃなくてもいいんだよ? もっと若いヤツで格好いい連中から選び放題なんだよ?」
「でも、私は祐一さんがいいんです!」
麗奈がそう言いながら真っ赤になって俯いた。
そしてつられて祐一も顔が赤くなった・・・
「アタシとしてはねえー、『遺伝子的にこの人~!』っていう女神の直感で選んだ伴侶を、半分とはいえ女神の血を受け継いでる麗奈が手放すわけ無いって知ってるから、祐一君を異世界に連れて行って、現実なのよー! って知ってもらおうと思ってさ~」
女神が、ブツクサ言いながら、珈琲カップに口を付けた。
「まあまあ、アイちゃん。取り敢えず祐一君も麗奈の本気度が分かったみたいだからいいんじゃないの?」
会長が苺の乗ったケーキにフォークを突き刺しながら苦笑いをする。
異世界から一度撤収し、祐一のマンションの近くの例の喫茶店で全員がお茶をすることになった・・・
筈だったのだが。
なんと祐一、愛車に麗奈と社長を乗せて自分の実家に挨拶に行ってしまったのだ。
「決断早すぎでしょー! 祐一君。昨日はまだまだウジウジしてたくせにー!! 恋愛恐怖症何処へ行っちゃったのよー!」
女神様は自分の出番が減ったので、ちょっとだけ拗ねているようである・・・
「ねえ、それより私気になることがあるんだけど~」
それまでずっと黙っていた美奈がチョコレートケーキをフォークでカットしながら器用に視線を天井に向ける。
「何が気になるの?」
娘が何やら大人しくしているのも珍しいな、と思いながら目を向けるアイーシャ。
「さっきの祐一さんの格好」
「格好?」
「忍者の格好よー」
ケーキを口に運びながらウ~ン、と首を捻る美奈。
「あの黒ずくめかい?」
会長が上品に紅茶のカップを口に運ぶ。
「うん、それ。どっかで見た事があるのよね〜。何処だったのかなあ」
「えー、祐一君に会ったのも初めてでしょう?」
「そうなんだけど、私個人的によく会ってた様な気がするのよね」
「「個人的に?」」
「こう、何ていうか。あの姿を見た途端に、待ってました! っていう気分になってさぁ、キャーキャー言いたくなるっていうか・・・」
「「はあ?」」
「やっちまえー! みたいな気分になってさー、行け〜、GO! GO! みたいになっちゃって・・・」
会長が首を傾げ、女神がジト目になった。
「何かアイドルの追っかけみたいね?」
珈琲を一口飲むと首を捻り
「でも、やっちまえ! はアイドルの追っかけとは違うわねえ」
会長が
「それだと、どっちかって言うとヒーローかな?」
ポツンというと
ガタッ! っと急に椅子から立ち上がる美奈。
「ああああ!」
「「どうしたの?」」
「Ninjaグリーン! 正義の味方のお兄さん! ヒーローだわっ!」
「「はぁ?」」
立ち上がって興奮する美奈を目が点になって見上げる2人。
「小学校高学年の頃にやってたテレビ番組に戦隊モノがあってさ、その中の忍者の戦隊モノに出てた俳優さんに祐一さんが凄く似てるのよ!!」
「忍者の戦隊モノ・・・」
「そうなの!! 番組名を忘れちゃったけどさ、うーんググってみようか」
そう言いながら肩からかけてあった黒いサコッシュからスマートフォンを取出して調べ始めるミナ。
「え〜、祐一君が俳優って事?」
「会社にファイリングしてある履歴書見たら分かるんじゃないの?」
会長と女神が首を傾げた。
「あった!! やっぱりそうだ。メッチャ似てる!」
「「えーっ?」」
思わずといった感じでミナのスマホを覗き込む。
「ピンボケで判りにくいわねえ〜」
「だって10年くらい前の番組よ〜!」
3人で小さな画面を覗き込むと、そこには5人の色とりどりの衣装とフルフェイスを被った戦隊モノのヒーローの写真がデデンと載っていた。
その周りにコラージュのようにサムネイル画像があり、その中の1人が確かに祐一によく似ていたのである。
「え~と、何々? Ninjaグリーン?」
「どうもコレだと、サブヒーローって役回りだよね?」
会長が胸ポケットから老眼鏡をサッと取出してスマホの画像を覗き込む。
「あー、確かに祐一君がもっと若くて茶髪だったらこんな感じだろうねひょっとしたら10代じゃないかな?」
美奈がウットリとして両手を組んで
「カッコよかったのよ〜。Ninjaグリーンは、変身後の殺陣とか爆破シーンとかも自分自身でやっててさ〜! 私のヒーローだったのよっ! 他の俳優も女優も変身したらスタントマンが代わりにやってたんだけど、グリーンだけは元々スタントマンだったのを監督がスカウトして、サブヒーロー役をやってたの。だから番組終了と共に一般人に戻っちゃっのよ!!」
「美奈、アンタ詳しいわねえ」
「当たり前じゃない! アタシの初恋よ! Ninjaグリーン!」
「「・・・はぁ」」
「グリーンを探すためにモデルになったんだからねっ!」
プンスコ怒る美奈。
「その割に彼氏を取っ替え引っ替え作ってたわね。アンタ・・・」
「だって〜全然情報が無かったんだもん! 他の人はさ、俳優とか舞台女優とかになって芸能界に残ってるんだけどさ、唯一グリーンだけがスタントマンまで引退しちゃって情報非公開だったんだよ〜」
「「成程」」
会長が自分のスマホを弄っていたが
「wikipediaにもNinjaグリーンだけ情報が載ってないな〜、どういうことかねえ」
と呟く。
「良かったね、美奈。お義兄さんになってくれるから、これから毎日でも会えるじゃん!」
女神様が神々しい笑顔でそう言った。
「いやぁ〜! 彼氏がいい〜!! アタシが祐一さんを先見つけてたらアタシの彼氏だったのにぃ~!! 悔しいーーーー!」
ゴツンと音をさせて額をテーブルにぶつける美奈。
「まあ、確かに美奈もえらく気に入ってたからねえ祐一君の事。いつもの女王様対応とは全く違って、やたらベタベタくっついてたしねえ・・・」
アイーシャが思い出しながら珈琲を飲む。
「女神の遺伝子と相性がいいんじゃないのかい? 祐一君の家系の遺伝子自体がさあ。そうだったらいいのにねえ〜」
会長がハハハと笑う。
「そういえば、祐一君の部屋の写真立てに家族写真があったんだけどね、全員が何だかいい感じだったわね。こう惹かれるっていうのかなー、あと弟が彼によく似ててさー、弟いるでしょ? って言ったら祐一君が焦っちゃって・・・」
「え、弟さん?!」
美奈の目がキラリと光った・・・