異世界deドッキリ
異世界ってなんでわかる?
そりゃあ、遠くにデカイ洋風の城が見えてたら、ディ○ニーランドか異世界の2択だろう。
で、ここ最近の流れだと絶対に後者だ。
突然現れた遠くに見える。白亜の城と周りの鬱蒼と茂った木々。
更に、コイツは一体何だよ? 何かのアトラクションの着ぐるみ? と聞きたくなるような、2メートル位の身長の赤くて横幅がデカくて腹と背中にめちゃくちゃ固そうな鱗を装備? した、目つきの悪い熊っぽい生き物が、彼ら2人の目の前で仁王立ちになって牙を剥いている。
両腕というのか、前足というのか悩ましいところではあるが、それを振り上げてよだれを垂らしているのだが・・・
「うーわ、コレってめっちゃヤバい?」
思わず口をついて出てきた言葉って、本人の内面を表すって言うけんだけど。
祐一はかなり冷静だと思う、だがしかし。
「コレは熊なのか? それともアルマジロなのか?」
呟きながら首を呑気に傾げている・・・結構お茶目なだけなの男なのかも知れない・・・
「グオオオオオー!」
――多分、熊だな。コレ。
赤い熊モドキはその上げている右の前足を、祐一が抱き抱えているレナを狙って振り下ろしてきた。
抱きしめたまま、ヒョイと躱す祐一。
「コラ、お前生意気だぞ」
熊モドキが前足を振り降ろした姿勢で突き出した鼻先に、左足を軸にして右脚を思い切り振りかぶって、キックを入れた。
「ギャインッ!!」
犬が尻尾を踏まれたような声を上げて、鼻を両前足で抑えてズリズリっと後ずさる熊モドキ。
ついでに鼻先を蹴った足の踵を地面に落として思い切り蹴り、勢いで足元の土を削り熊モドキの顔に目掛け引っ掛ける。
「ギャイーン!」
――やっぱこいつ犬かな? この鳴き声。
とか思いながらレナを抱えたまま3ステップ程祐一が後退した。
この間約1分足らずで色んなことをした祐一。
「次どうすっかなー」
ペロリと口元を舌で舐めて、赤い敵? の出方を見ようと睨むと、熊モドキの鼻先が急に発火した!
「ギャウううぅーン!!」
いきなり自分の鼻先が発火したことに驚いたのか、一目散に熊モドキはキャンキャンキャンと言いながら森の中に駆け込んでいく。
「やっぱ、犬か?」
ポカ〜ンとその姿を目で追っていると、
「ごめんごめん、ビックリさせたかな?」
という声が後ろから聞こえてきた。
この声メッチャ聞き覚えあるぞ。イシカワ・コーポレーション会長、石川辰夫70歳の声っ!
「会長・・・」
「おじいちゃん・・・」
辰夫は真っ白い長いマントをスッポリ被っており、手には長い杖を持っていた。
杖のトップはクルンと山菜のワラビみたいに巻いていて、その中心にガラス玉みたいなモノがハマっている。
「いやあ、祐一君凄いね、殆ど一人でレッドベアを撃退しちゃったじゃないの?! 君、何者?」
ちょっと興奮気味の辰夫。
「え? あいや、必死だっただけです。麗奈さんもいるし・・・」
苦笑いの祐一。
「愛ちゃんが、急に『そうだ! 異世界に行こうっ』て言い出してさ」
「お母さんのLINE、こっちに来る直前に見たよ・・・」
祐一の腕の中から溜息混じりで、息も絶え絶えといった感じで答える麗奈。
「そしたら出現ポイントが君たちだけズレたみたいでさあ。レッドベアの真ん前に出ちゃったみたいで、慌てて迎えに来たんだよ~でも祐一君が頑張ってたからさ、ちょっとだけ手伝っただけで終わったね~」
あははははと笑う会長。
「所で、会長その格好?」
驚いて目が点になっていた祐一が質問する。
熊モドキには驚かなかったのに・・・
「祐一くん、まあ、取り敢えず麗奈の呼吸が止まる前に離してやって~あはははは」
「?」
祐一の腕の中を見ると、またしても金魚みたいに真っ赤な顔で呼吸困難に陥っている麗奈がいた。
そっと手を離す・・・
――またやっちゃったよ。この子ホントに男に免役ないんだな・・・・
「僕は、こっちの世界では『大賢者』なのよね。息子は『英雄』だけどさ~魔法使いって知ってる?」
「はい。一応は」
「ホイッ」
と辰夫が声を出しながら杖を振る。
2人の立っている右横5メートル位のところへでっかい火の玉が飛んでいき、何かが大破した。
多分? 岩かな・・・?
見る影もないので判別は不明・・・
――じゃ、さっきの熊モドキ改めレッドベアの鼻先の発火は会長の仕業か・・・
「お馴染み? のファイアーボールね。いいでしょこれ、簡単で偉力があるから僕好きなんだよね。あははは」
好きとか簡単とか何かな色々ぶっ飛んでる、と思うのは祐一だけか?
「くおら! 放火魔、何でも燃やすんじゃねえ!」
デカイ声とガッシャンガッシャンという音をさせて、今朝辺りに聞いたことのある声が・・・
「目を離すと何でも直ぐ燃やすのはヤメロ!」
「ええ~、じゃあ今度からブリザードにするね」
「そうじゃねえ!」
デカイ。
さっきの熊モドキと同じ位の身長の大男が、デカイ幅広の大剣を背負って、獣の皮と金属でできた上半身だけの鎧とロングブーツという出で立ちで現れた。
金属の鎧の下に何やら黒光する革製らしき服が見える。ヘビメタのロックバンドのボーカル? みたいだ・・・
「社長・・・」
「おお、神谷。急ですまんな! 娘を庇ってくれてたようだな、恩に着るぞ!」
ガハハと豪快に笑うイシカワ・コーポレーション社長石川隼雄46歳既婚。
「ヤダー、メイクが出来てなかったのにママの意地悪~」
げげっこの声は! 恐る恐る振り返ると祐一の後ろ側3メートルくらいの所に仁王立ちでプンスコ怒っている美少女が・・・
麗奈の妹、職業モデル(らしい)石川美奈18歳。
目にも鮮やかな赤いフード付きの短めのマント。ホルターネックの花柄のブラウスにヒラヒラ捲れ上がりそうな白いミニスカート。マイクロスパッツと白いニーソとベージュのサイドゴアブーツ。何故か片手にコンパクトを持って覗き込みながら歩いてくる。
うん、赤ずきんちゃん。
「あ、祐一さんだ~♡」
コンパクトをサコッシュに慌てて放り込み、ぴょんと跳ねるように祐一に向かって飛びついてきてサッと腰に手を回して抱きつく。
「コラ離れなさい~!! 悪役令嬢」
「やだあ~んも~」
ベリっと言う効果音が聞こえそうな勢いで、祐一から美奈を力技で引っ剥がす女神様。
後光が差しているのはもう馴れた。
イシカワ・コーポレーション社長夫人、石川アイーシャ。
因みに年齢は怖くて聞けない。
真っ白いペプロスとヴェール、手には見たことのあるような、無いような2対の羽の付いた杖を持っている。もうまんま女神様。
デスヨネー。
よく見ると、麗奈の格好も変わっていて、ワンピースはそのままだが白いクタっとしたショートブーツを履いていて、会長と同じような長い真白なマントを羽織っている。
金の羽根飾りの付いた、白いベレー帽を被って、いかにも聖女様・・・
――うお、かわいい。
そして俺は?
「うわ、なんだコレ?」
体にピタッとした飾り気のないライダースジャケットみたいな真っ黒な革ジャン? と同じ素材のスリムパンツに黒い編み上げブーツ。
首周りに真っ黒い長いストールが引掛てある。
「悪役ライダー?!」
ぶふぉう、と社長が吹き出した。
会長は首をひねり、石川姉妹は口に手を当てて、顔を赤くしている。
「んまあ~ 珍しい。祐一クンの職業って『忍者』だわ」
と女神がそう言いながら目を細めた。
「・・・・・」
何で、よりによってソレ?
祐一は頭を抱えたくなった。
どうやら個人の適職に合わせた衣装が勝手に装備されるという異世界仕様のチートらしい。
で、ニンジャ、忍者、Ninja・・・
何故かしょっぱい顔になる祐一。
「珍しいな神谷、お前忍者か〜初めて見たぞ」
社長が顎に手をやり、無精ヒゲをジョリジョリと触っている。
――休日なので剃ってなかったからだな! 朝見たから知ってるぞ。
「不思議ね忍者って上級職なのに。通常なら初級職の盗賊辺りなのにねえ。体力とか知能がそっちに偏ってるのかしら」
首を傾げる 女神。
「つまり戦士ほど馬力はないが、ソコソコ戦えて、魔法使いほどではないが魔力はある、と言うことか?」
口に出すと絶妙に中途半端感が満載な事を言いながら社長も首を傾げた。
「賢者並みに知性はあるって事だよね。あとはそこそこ器用で、魔法より魔術とか錬金術ってとこかな」
これは会長。
「・・・」
黙って目だけが泳ぐ祐一。
「コーヒー入れるの、上手いよね~」
なんか全く関係ない事を言い出す美奈。
「「「あ、経理課!」」」
最後に会長と社長と女神の3人がハモったが、恐らくそれも関係無いだろう。
色々と理由を考えて上級職になった条件を知りたいらしい・・・
「わかんなくもない感じで、その職業で落ち着いたのかしらね〜?」
ホントに便利なんだか分かんないチートだわよね、とブツクサ言う女神。
ちょっと離れているので祐一に女神の言葉は聞こえなかったが、何故か彼は微妙な顔で自分の服を見回している。
「ところでお母さん?」
麗奈の声で彼女に視線を向ける祐一。
玲奈は顔を赤くしてプルプル震えている。
――えーと、コレは怒っているのか?
「祐一さんを急にこっちに連れてきて、予定とかあったら困るじゃないの!」
「ダイジョーブ~祐一くんの布団は、ちゃんと取り込んできたから~」
――オイ、不法侵入者だよそれ。
「そうじゃなくて心の準備とかがあるでしょ!」
「え~。だって異世界も見せとかなきゃフェアじゃないじゃーん。あと半年以内に結婚するかコッチで神格上げるの手伝うか・・・」
「質問ですけど」
珍しく石川母子の会話に手を上げながら入ってくる祐一。
「麗奈さんの言ってた週末毎の付き合いっていうのコレのことでしょうか? 」
自分の格好を再度見直しながら
「取り敢えず麗奈さんは、いきなり結婚とかじゃなくて、一応俺に選択肢っていうのを与えるつもりで週末コッチに連れてくる気があったってことでしょうか?」
麗奈が実に言いにくそうに
「はい」
と答えた。