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明日は久々の休み・・・のはず。

サビ残帰りに会社の受付嬢に一目惚れされてから始まるアラサー男のバタバタ異世界おまけ付のラブ?ストーリー(≧▽≦)


 彼の名前は神谷祐一。28歳、独身。


 1流とも3流とも言えない中途半端な中小企業に勤めているサラリーマンである。


 経理課の課長という実にイタイ中間管理職で、浮いた噂もなければ悪い噂もない、いわゆるごくごく普通のアラサー男子。


 今日もいつもの様に経理課のワンマン部長、大塚の後始末に追われて精神的にゴリゴリ削られるサービス残業を済ませ、やっと帰れると思いながらタイムカードを押す。


  古臭いタイプの煤けたカードに7時28分という中途半端な時間が押された事を確認して経理課のドアを閉め鍵をかける。



 もう誰も残っちゃあいないので、必然的に鍵を閉めるのは祐一の仕事になる。



 まだまだ決算月には程遠いので、部下は皆、自分の持ち回りの仕事が済めば押しの強い部長の我儘なんぞに付き合えるかという気持ちもあるのだろう。尻に帆をかけるように我先に帰っていくのである。


 仕上がった書類は部長に提出する前に課長の判子をもらうという迷惑極まりない決まりがあるため、全員が提出し終わるまで祐一は帰れない。


 もっとも祐一が判子を押した時点で大塚はチェックも禄にせず上にそのままあげてしまう。


 要するに実際の最終チェックは祐一の仕事で、大塚は部長の欄に自分の判子を押すのが仕事みたいなものである。


 自分の確認は無しでそのまま部長の所へ持っていけりゃあいいのにと、今日も溜息をつきながら、祐一はエレベーターのボタンを押した。




 ――帰ったら昨日の残りのカレーでも温めて食うか。


 コンビニでサラダでも買って、ああ、明日の朝の食パンがきれてたからついでに買って帰るかな。


 あ、珈琲豆も切れてたよな。




 そんな事をボーッと考えながら1階から上がって来るエレベーターのランプをみていた。


 明日は週末、久しぶりの2連休だ。


 祐一の会社は隔週で土曜出勤があるのだが、実のところ経理課は月~金曜しか仕事がないので、実質ただの電話番だ。それもほぼ経理課にかかってくることはない。


 有給を使って休みをとっても良いのだが、何となく有給を使うのがもったいない気がして出勤している。


 土曜日はビルの清掃会社のパートのオバちゃんが、毎回糞真面目に出勤している祐一に、偶に差し入れなんかをくれる時もあるのでちょっとだけ行っといたほうが良いかなあ、というのもある。


 優柔不断というのか、呑気というのかまあ、祐一はそんな風に思われがちな男であった。







 エレベーターのドアが開き、乗り込んだ祐一は1階に降りるためにボタンを押す。


 明日は天気が良さそうだから布団も干すかな~。シーツも1週間洗ってないし、と所帯じみたことをブツブツ呟きながら1階に降りて出口を目指す。


 もちろんビルの出入り口の受付嬢も帰っている・・・筈だった。


 何時もの素っ気無い受付嬢ではなく、初めて見る顔だ。


 年の頃は20歳過ぎたばかりだろう。



 ――新人かな? 早く帰ればいいのに。



 この会社では、受け付けの女の子の仕事は6時までとなっているはずで、遅くまでいる必要は無いのである。


 残業手当だって出ないのだ。


 もっともそんな事を考えている祐一は、サービス残業の常連ではあるのだが・・・



  一応声をかけてから帰るか、と思いながら受付に



「お疲れ様」



 と声をかけ、新人さん? の顔をちらっと見た。



「!?」



 美人である。


 いや、それ以上に吃驚するのはどう見たって日本人じゃない。


 色白だなあ~、と遠目に確認はしていたが髪の色が黒かったので気が付かなかったが、瞳の色が緑色だった。


 うちの会社もえらくグローバルになったもんだと一瞬感心したのだが、いつも愛想の無い受付嬢に退社時間を教えてもらえなかったのかもしれないと考えた。



「君、早く帰りなよ、ここの受付は6時で終わりだから。こんな時間まで残る必要ないんだよ」



 とまあ、お節介かなとも思ったが部署は違っても一応は上役なので声をかけてみる。



「有難うございます。新人なので知りませんでした」


「先輩に習わなかったのかい?」


「用事があるとかで、早退されたのです。今日が初日でしたので色々手間取りまして。日報を書いたら帰ろうと思います」



 流暢な日本語で返された。



「書き方分かる?」


「ハイ。一応は」



 カウンターに近寄り手元を覗くと書きかけの日報があり、ほとんど書き終わっていた。



 因みに隣のページの前任が書いたものよりずっと書き込んである。



「その程度書けてたら上等だよ。自分の名前を記入者の欄にサインして、早めに帰りなさいもう遅いから。次から日報は5時半頃から書き始めるといいよ」



 そう祐一が言うと、彼女はニコリと花が咲いたように笑い、嬉しそうに



「ハイ」



 と返事をした。


 彼女がカウンターの下に引っ込み、日報を片付け始めたのを確認してから



「じゃあ、お先に」



 と言って、正面玄関に向かおうとすると



「お疲れさまでした」



 カウンターから声が掛かった。


 ちらっと振り返ると彼女が手を振ってくれていたので照れくさかったが、手を振り返して外に出た。







 祐一の会社の前には、デデンと大手の有名コンビニがあり、そこそこ何でも揃っているのでよく利用する。



 ――今日はサラダと食パンとコンビニブランドの珈琲豆・・・



 とカゴに次々と放り込んでいく。


 そういえば使い捨ての髭剃りがなくなりかけてたな、と思い出してソレもカゴに入れ、 何となくレジ前で売ってるチキンが食べたくなり注文する。



 精算中に煙草が目についてカートンで買った。買い置きがもう無いはずだ。



  ――高いけどなあ~ 



 と思いながら、支払いを済ませる。



 ――ほぼこれ、税金だよな〜



 と苦笑い。


 それでも禁煙する気はさらさら無い。


 一度禁煙をやってみたものの、食費の方が嵩む上にコレステロール値のほうがヤバくなったことに気がついたのでやめた。


 死ぬときは肺がんかもしれないが糖尿病よりはずっとマシだとソレが原因で死んだ、曽祖父を思い出してそう決めた。


 男性従業員がお釣りを渡しながら



「あっりがとうございました~」



 と唄うように言う。


 どこからあんな高い裏返った声が出るのかが不思議だ、と首をひねりつつコンビニを後にした。




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