第8話 サイカイ
私は特別クラス担任として、シャーリア魔法学園の教師になった。
分からない事は多い。でもまず気になるのは。
(この指輪……)
先ほど、私が特別クラス担任になる事が決定した後、教頭が私に「超能力者管理の指輪」を渡してきた。
そう、ディーロット教の技術が使われている代物だ。
なんでも、特別クラスの担任をする上でこの指輪は必須。
本来はグランツ教諭に渡すつもりだったが、担任が変わったので、私に渡したいという事らしい。
そして、特別クラスの担当である以上、この学園では常に「超能力者管理の指輪」を身につけていて欲しい——との事。
(超能力の発動反応を見る事が出来る指輪。
それを、常に身につけていて欲しい——ね)
決まりに異論はない。
でも、問題はある。
この指輪は、私の「アカシックレコード接続能力」にも反応するって事だ。
ただ反応するだけなら、問題はない。
反応した事を報告せず、こっそり力を使えば良いだけだ。
(でも、そう上手くいくとは思えない)
何せ、ディーロット教の技術が使われた指輪。
能力反応を他の指輪に共有する位の細工がされてても、おかしくはない。
私が黙っていても、力を使える事がバレる可能性はある。
(学園内での「アカシックレコード接続能力」はやめたほうが良いかも)
幸い指輪を着けるべきは学園内だけだ。
指輪の感知範囲は200m以内。
能力を使うなら、仕事が終わってから学園に指輪を置いて、外で使うようにしよう。
(ま、普段から極力、力は使わないようにしてるし。
困る事はない……かな?)
とりあえず、指輪については問題ない……って事にしておこう。
教頭やグランツ教諭等のその場にいた教員達は、あの後、業務へ戻っていった。
今、この場に居るのは、私と学園長とディエス先生だけだ。
何せ、今日は新入生が入って1日目。
忙しい日だろうに、付き合ってくれた事には本当に感謝してる。
「そういえば、学園長は新入生への挨拶はしなくて良いんですか?」
羊皮紙製の手続き書類へと記入しながら、ふと思いついたので質問してみる。
「それならば、入学式の日に既に行っていますぞ。
今日は、あくまで授業開始初日であって式は少し前に終わっているのです」
「でも、私は挨拶をするように言われましたけど?」
「ピメリィ殿は式の時に居なかったのですから、当然でしょう」
それはそうだ。でも、じゃあ。
「なんで、新入生は式もないのになぜ講堂集合だったんですか?」
「今日の主な目的は、我が校で今年から始まる特別クラスの生徒達を新入生に紹介する事だったのですよ。
そう、ピメリィ先生が受け持つ生徒達です」
また出た、特別クラス。
「結局、特別クラスってなんなんですか?
何やら、問題がありそうな事は分かりましたけど」
「簡単に言いましょう。
特別クラスとは」
「超能力者のクラスよ」
学園長が説明しようとした所に、突如ディエス先生が割って入る。
やや不服そうな学園長を尻目にディエス先生は、話し始めた。
「ピメちゃん。
超能力者はまず知ってるわよね?」
「えぇ、まぁ。
人間の体内に宿る魔粒子。
それが突然変異して、特殊な力を使えるようになった人間。
その者達が、超能力者ですよね?
突然変異の原因は不明ですが、超能力者は10年程前から発生してるって」
まぁ、私は超能力者発生の原因知ってるけどね。
アカシックレコード接続能力で。
でも、この原因ばかりは……。
「その通りよ!
ふふ! 良いわよね超能力者!
突然変異により、魔法とも異なるイレギュラーな力を担う事になってしまった存在!
まさしくそう、運命に選ばれしもの達!」
「ディエス先生……?」
……この人、研究者気質の変わった人だと思ってたけど。
ハルト様が言う所の「厨二病」なだけかもしれない。
「特別クラスは全員超能力者なの。
超能力の歴史は浅い。
国が超能力のデータを収集する為に設立したクラスこそ、特別クラスという訳」
「なるほど」
大体、事情は分かってきた。
私は超能力者の生徒達の担任をする訳か。
魔法学園に来てそんな事になるとは、正直全く思ってなかった。
「勿論、魔法学園の合格者だから、超能力者と言っても魔法も使える生徒と聞いてるわ。
魔法使いとしての授業も当然して欲しい。
でも、中心としてやってほしい授業はそれじゃない。
そうよね、学園長」
「そうです。
ピメリィ殿、貴女には彼、彼女らの超能力を磨いて頂きたい。
それが出来るのは、魔粒子分野の専門家。
すなわち、この学園では貴女であると考えます」
「超能力者は体内の魔粒子が変異したモノだから、魔粒子に詳しい人間ならば、効率的に磨く事出来ると?」
「国はそう考えているようですな。
グランツ教諭も魔粒子にある程度精通していましたが、ピメリィ殿には及びませぬ」
国の方針、と言う訳か。
特別クラスも、そこに割り当てる教員の適正も。
(そして、教員はディーロット教の技術を使った指輪を着ける義務があると。
……またこの国について、調べないといけない事が出来た)
宿屋に帰ったら、早速能力を使って、国について情報を視てみよう。
こういう時、危険を冒して調べる必要がないから、この力は便利だ。
「時にピメリィ殿。
特別クラスにどのような生徒がいるか、気になりませぬか?」
突然、学園長からそう声をかけられる。
「それは勿論」
気にならない訳がない。
グランツ先生から、色々と言われていた特別クラスの生徒達だ。
正直、どんなヤバい生徒達なのだろうと緊張している。
「恐らくですが。
彼らは今頃、講堂での紹介が終わり、教室で担任を待っている頃でしょう。
書類も書き終わったようですし、是非行ってあげて下され」
「そうだったんですか!
待たせては悪いですし、早く行く事にします。
ところで、ディエス先生はこれからどうするんですか?」
「私? そうね。
当初と予定は変わってしまったけれど、これはこれで良い。
私は普通の生活に戻るわ。と言っても……」
ディエス先生が、手招きするような動作をした。
近づいてみると、彼女は学園長に聞かれないよう小声で話し始めた。
「生徒についてのデータサンプル。これは忘れずに取ってね」
「具体的に何を取れば?」
私も小声で返す。
「日々の様子なんかで良いわ。
貴女なら、生徒の魔力の流れも分かるでしょうし、その辺りの記録もよろしく。
後、出来れば、一般生徒の様子も記録してくれると助かるわ」
まぁまぁ、注文が多い。
でも、クレイユ先生の居る研究所に行く為には仕方ないか。
「分かりました。
報告はどうすれば?」
「ノウマン研究所にクレマという70手前の男がいる。
私の弟子よ。
彼宛にデータサンプルを学園の瞬間転送装置で送って頂戴。
毎月1回、月の頭に。
瞬間転送装置の使用許可は後で私が取っておく」
「分かりました」
さて……これから1年忙しくなりそうだ。
でも、まずは。
「学園長!
早速、生徒達に会ってきます!
教室はどこですか!」
私の教員生活を始めよう!
◇
一方その頃、特別クラス教室にて。
「なぁ、ジャントラ。やけに教師が遅くないか?」
茶色の髪の毛をツインテールにした14.5の少女は、隣にいる男にそう問いかける。
「気のせいでしょう。お嬢」
そう言った男は、桃色の髪の毛で何より耳が長かった。
ハーフエルフの男である。
「そうか?
というか、私はもうとっくに貴族じゃないんだから、お前もお嬢はやめろ」
「そうですね。
あの6年前の事件……いつかピメリィ殿に会ったら謝りたいものです」
「ピメリィ、か。
奴は今頃、一体何をしているか知っ」
「おぅおぅ! なんか面白そうな話してんじゃねえか!
聞かせろ!」
「きかせろ〜」
教室の真逆の位置に座っていた男女が突如2人の会話に混ざってきた。
1人は、背が高くガタイの良い赤髪の男。
もう1人は、褐色肌に緑髪という快活な外見に反して、何やら何やら緩い雰囲気がする少女である。
「あー……講堂の紹介で聞いた話だと。
確か赤いお前はヴァイスで、緑のお前はコメットだったか?」
「適当に覚えやがって!
俺は最強の再生能力者にして、名探偵ヴァイス様だ!」
「名探偵?」
「ヴァイスは普段、物探しのハンター活動してる。
そっちの方面だと有名」
コメットがヴァイスの方を指刺しながら、そう話す。
「なるほど、ハンターか」
「んなことはどうでも良い!
それより、お前らって元貴族なのか!
事件ってなんだ! 探偵として調査せざるを得ねぇな!」
「構うな。
元貴族なのは確かだが、自分からあの家を抜けた。
使用人だったこいつもな」
そう言って、ナナはさりげなくジャントラの方を指刺そうとして……いない事に気付いた。
「あれ? ジャントラ?」
「勇者殿! この聖剣!
幼女が宿ってはいませんかー!
よく気配を辿ると幼女の様な気配がします!」
……ジャントラは、クラスの中央の席にいた1人の人物に声をかけていた。
「それは」
「やめろジャントラあああ!
すまんな、勇者候補。こいつロリコンなんだ」
「いや、限度があるだろ」
さっきまで軽く暴走していたヴァイスが、至極真っ当な突っ込みをした。
「いい、気にしないでくれ」
そう言った人物。
それは、一見どこにでも居そうな少年だった。
黒髪中肉中背。目立った特徴何も無し。まさに凡夫。
しかし、この少年は勇者候補、そう呼ばれていた。
「アーサー・アルバート。
ラーロット国の特級危険種 大邪竜を封印する勇者候補の1人
伝説の聖剣テッカロンを扱える超能力……。
よくわかんねーけど、お前、スゲェんだろ。
いつか、俺と一緒に探偵をしてみねぇか?」
「悪い、俺には出来そうにない」
「ちぇ」
「ヴァイスの捜査はくだらないから、やめるのが正解」
「おい、コメット? どう言う事だ?」
ヴァイスは、少しコメットに怒った。
そんな様子を見ながら、ナナは微かに笑って、ジャントラに対して語りかける。
「やれやれ、騒がしい奴らのせいで話がそれたな。
で、ピメリィが今何をしているか。
そちらでは情報は掴んでいるか?」
「分かりません。
らしき人物が貴族と商談をしているという話は、耳にしましたが。
ケルテッカーを持っているか分からない以上、ピメリィ本人と断定は出来ません」
「そうか。
いつか、会えると良いのだが……」
その時だった。
「お待たせしました!
特別クラス担任の村木ピメリィです!
今日から、よろしくおねが……」
「ピメリィ!?」
「えっ、ナナちゃんとジャン兄!?」
ピメリィは思わず、固まった。
「お嬢。何を言ってるんですか。
ピメリィと言えば、あの天使の様に可愛い幼女じゃないですか。
これは、幼女ではありません。
なので違います」
「お前、そこでしか見とらんのか!
6年も経てば、成長するに決まってるだろ!」
「う、うそだ……幼女が成長したと言うのか!?」
「当たり前だわ! お前は何に驚いてるんだよ!」
「け、ケルテッカー!
ピメリィなら、ケルテッカーは!」
「えっ? あるけど」
ピメリィは懐から、小さな杖を取り出した。
「け、ケルテッカーだ」
「例のヤツに変えられるか?」
「例のっていうとコレ?」
ピメリィの杖が一瞬のうちに小口径の拳銃へと、変化した。
「はっ!? なんだあれ見た事ねぇ物になったぞ!」
「どうなっている……?」
その様子を見て、ヴァイスとアーサーは驚き。
「へぇ〜」
コメットは凄さが分かっているのか、いないのか分からない相変わらずの様子で一言そう言った。
「ほ、本物のピメリィなのですね。
あ、あ、あの時は……」
「あー、そんな事もあったね。うん。
あの家まだ滅んでないんだって? クソだよね」
「その家の娘の前でよくそんな事言えるな。
気持ちは分かるし、もう絶縁したが」
「……でも。
今の私は教師です!
なので、とりあえず先生として授業します!」
そう言って、ピメリィはひとまず授業を始めようとし……。
「みんなの事分からないと、進めづらいから、まず自己紹介から良い?」
「いや、授業するんじゃなかったんか!」
ナナに突っ込まれるのであった。