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第6話 ピメリィ教師になれと言われる

前回までのあらすじ!(1ヶ月くらい開いたので)


人族の大都市ナパッタへ旅に来た少女 ピメリィ。

神に作られた存在である彼女は、世界のアカシックレコードから過去の記録を全て読む事が出来るというチート能力を持っている!


そんな彼女は、何となく気分で国立の魔法学園に侵入すると事件に巻き込まれてしまった!


この都市で会ったミリアナという少女が、教員のディエスを焼いているではないか!

色々あって、ミリアナの事を良く思っているピメリィは、彼女を罪人になる事を防ぐべくミリアナの魔法「魂焼」を利用し、ディエスの怪我を治す事に成功した。

ディエスに対し、ミリアナがした事は正当防衛とも分かり、これで一件落着……とはならず!

治しきれなかった焼け跡が残ってしまう!

だがディエスは焼け跡で醜くなった自分の姿を見て、むしろ嬉しそうに笑い、ピメリィに内緒の提案を持ちかけるのだった!


その提案とは!?

「私の代わりに学園の教師をやってくれないかしら?」

「勿体ぶっときながら、ばらすの早ッ!」

「なんの話?」

「い、いや、なにか変なナレーションが聞こえた気がして。

では、気を取り直して……。

教師、ですか?」


何故、私なんかにそんな事を。


「不思議かしら? でも、おかしな事じゃないわ。

私、そもそも再任用で戻ってきたのも、教師になる事が目的ってわけじゃないのだもの。

そう。この学園の生徒のデータサンプルさえ、収集できれば……後は、何だっていいのよ」

「データサンプル、それが貴女の実験に必要なんですね?」

「よく分かってるじゃない。

だからね。別に私が教員にならなくても良いの。

貴女に依頼するわ、教員、ひいてはサンプルの収集を」

「断ります。私は」


私が提案を断ろうとした瞬間、ディエス先生は被せるように小さくこう言った。


「銀髪の私を焼いた子。

あの子が私を焼いた事を訴えないでおいてあげる。

多分、友達か何かでしょ?」

「うっ。友ではなく、推しですが……その提案はおいしい!

でも、正当防衛と聞きました! なら、訴えた所で」

「で、正当防衛と誰が証明するの?」

「くっ!」


確かに、全く持ってその通りだ。


「逆に聞くわ。なぜ、教員になりたくないの?

私から教員の給与以外の報酬も多く出す。私の実験に付き合うのが嫌なの?」

「いえ。ディエスさんの研究は悪い物じゃない。

それは()()()()()

「知っている? 変な事を言うわね。

私は、自分の為に実験してるだけよ」


ヘンな事じゃない。本当に知っているんだから。

アカシックレコードから見て、私だけは知っているのだから。

確かにこの人のやろうとしてる事は、個人的な執着からの実験。

ディエス先生は、何も嘘を言ってない。全ては自分自身の為。

でも……あんな実験が上手く行けば、それは確実に世界の為にもなる。

だから付き合う価値はある、けど。


「お金もあって困る物じゃありません。

ですけど。

教員ってずっとやらなきゃいけないんでしょう?

それは出来ないんですよ。私には使命があるんですから」

「使命?」

「多くは語れませんが」


なんて言おうか。

ま、でも簡単に言うなら、そう。


「宇宙に行きたいんです!」

「宇宙に?」

「えぇ!

それも、ただのこの星の外って意味じゃないです!

星も銀河もない宇宙の遥か彼方へです!

ですが、この惑星の技術、力、全て集めても、まだ現代ではそんな事到底できない」


そう、不可能。

その方法だけは、アカシックレコードで過去の記録を探っても分からなかった。

なら、賭けるのは未来しかない。


「私は、未来の可能性に賭けているんです。

ですから、もっと世界中を旅して、突破の糸口を見つけないと。

人間の私に、時間は限られてますから」

「宇宙、ねぇ?

でも、そういう事ならますます学園に居るのが良いと思うわ。

一応、国立の学園。研究だって行われているから、旅をして可能性を探るより身になるんじゃない?」

「……ですね」


普通なら、そうだろう。

でも、私は自分の与えられた能力のおかげで最先端の研究の内容も全て見えてしまう。

その上で、宇宙に行く方法が分からないのだ。

だから――学園に居る意味は恐らくない。


「納得が行かない様ね。

そんなに言うなら、学園長に掛け合って、この学園の最新研究を見せてあげるわ。

後、教員をする期間も1年だけで良い」

「1年……」


それなら、ちょっと考えても良いかもしれない。

いや、でも……どうだろう?


「学園長に話だけは聞いてみたいかな……です」

「良いじゃない。

それにしても心配するのが、そこだけとは恐れ入ったわ。

教員を務める事への不安はないのね。相当な自信家と見るわ」

「ふっ、その程度容易いですよ」


私には力があるからね! 自分の力じゃないけど!


「良い心意気ね、じゃあ!」


ディエス先生はそう言うと、少し萎びつつある植物に手をかざす。

すると次の瞬間、手元に金髪のかつらと服と黒いお面が現れた。


「私は焼けた服を着替えた後、このかつらとお面を被って、校長室に行くわ」

「そのお面は、医師がかけている?」


ある程度文明が発展した人の国の病院で、医師がよくかけているタイプのお面だ。

医師は通常の回復魔法では、治すのが難しいタイプの病気を体の構造を把握する事で、魔法で治す事を専門とした者である。


「その通り、違和感はないでしょ?

脚の火傷も長袖だから隠せるし」

「やっぱり、火傷気にしてますか?」

「気にはしてないわ。

校長と会うときに誰か分からないでしょ。髪もないと。

だからやってるだけ。

気にしてるというか、むしろ都合が良いと思ってるくらい」

「え?」

「なんでもない」


……いや、何でもない事はないよ。

そうだ、ディエス先生が実験をする理由は……。

なら、今の言葉にも納得が


「行くわよピメちゃん。

そうだわ、あの名前は知らないけど、銀髪子ちゃん」

「ミリアナちゃんです」

「そう、その子。

新入生でしょ? あの子は他の新入生が集まる講堂に行くよう言ってあげなさい。

――ここから長いから」



色々あって、ここの教員になるかもしれない。

後、ミリアナちゃんはもう大丈夫だから、講堂に行ってとそんな感じに伝えると。

あの子は、困惑したような喜んだようなよく分からない表情のまま。

「ディエスへの警戒は緩めないで下さい」と言ってから、講堂へと向かっていった。


「ここが、校長室のはず。変わってなければね」


一応、情報を視てみる。間違えなく校長室のようだ。


「先日、ノウマン研究所の瞬間転送機で連絡したディエスよ。

校長のディーレノ殿はいるかしら?」

「な、ディエス教諭だと!?」


中からは、中年の男の声が聞こえてくる。

かと思うと、次の瞬間、扉が開かれた。


「仮面?

いやしかし、その噂通りの姿、その強大な魔力。

間違えなくディエス教諭ですな?

遅いですぞ! 今はもう他の職員は講堂へ」

「知ってます。それについてですけど。

やはり、教員の話はなかった事にしてくれません?」

「なにを!」

「こういう事です」


ディエス先生はそう言うと、ゆっくり仮面を外した。

焼け跡だらけの顔面が現れる。


「うっ!」

「ふふ、あら酷い。

これはね。あの後、実験でこうなってしまったの。

髪も焼け落ちてカツラだし、脚も火傷してる。

この状態では、教員は難しいでしょう?」

「む、むしろ、よく平然としてますな……。

治すあてでも?」

「そうね。

ある、と言っても間違えでは無いわ」


随分含みを持った言い方だ。

でも、私にはその意味が分かる。

……実験。その成果で()()()()治る。そう言う事だろう。


「で、では、治ってから、教員を」

「考えても良い。

でも、それまでには何年もかかってしまう」

「何年も!?」

「えぇ、それだと困るわよね?

だから、優秀な代理を連れてきたわ」

「代理? もしやそこな少女ですかな?」

「彼女、ピメリィはとても優秀な魔法使いなの」

「生徒とさほど変わらぬ年に見えますが」

「優秀であれば、そんな事は関係ないはずよ」

「理はありますな。

優秀であれば、ですが。

失礼ですが、お嬢さん年は?」

「あの……一応(戸籍上)27歳なんですが」

「そうなの!?」


ディエス先生の方に驚かれてしまった。

……まぁ、あくまで動きやすくする為の戸籍上の年齢。

実際の歳とは違うんだけどね。


「な、なら、ほら! 年も問題ないわ!」

「い、否!

教員としての適正は分からないでしょう。

それに、私はディエス教諭に頼んだのであって」

「ディーレノ殿は昨日、元々ノウマン研究所にいる私の弟子 クレマ宛に依頼をしたはずよ。

瞬間転送機なんて、国立研究機関くらいにしか普通ない」


瞬間転送機とは、国の研究機関や大貴族の屋敷など限られた場所にのみ存在する物体のテレポート装置だ。

装置がある場所同士で、やりとりする事が出来る。

あくまで小さな無機物だけしか飛ばさないが、それでも価値は高く、希少な存在。

昨日依頼を出して、今日来るとはやけに早いと思っていたけど、そう言う事か。


「昨日、私がたまたまノウマン研究所にいたから、興味を持って代わりに受けただけ。

つまり! ディーレノ殿は別に私じゃなくても良いはず!

嘘はやめて欲しいわ!」

「ぐっ、そ、それは仰る通りです。

仰る通りなのですが!

私が依頼したのは、かつて学園に勤めていた者達ですぞ!」

「ピメちゃんはその者達以上の力を持っている。

そうだわ。そこまで言うなら、テストしてみたら?

採用試験よ」

「え?」

「ふむ、そこまで言うのであれば良いでしょう。

我が校の教員に相応しいか、この者をテストし、問題無ければディエス教諭の言い分を受け入れます。

ただし、テストは厳しいですよ?」

「え?」


な、なんか、私の意思と関係なく試験する流れになってるんですけど!?



それから……。

校長室に入って、試験の流れとやらを説明された。

知識・教養の筆記、魔法の実技、そして最も大切な授業の実技。この3つで行うと言う。

筆記は今から問題を用意する事は出来ないので、既存の問題を使うが、その分難易度は高いとの事。


(どうしてこうなった?

まず、学園長にこの学園の最新研究を見せてもらうだけじゃ?)


ディエス先生も全くその話をする様子はない。

嵌められた感が半端でない。

……一応聞いてみよう。


「学園長、あのですね。

私、まだ教員になるって決めた訳じゃなくて」

「何? そうなのか?」

「はい。

ディエス先生から、学園長に掛け合って、この学園の最新の研究を見せてあげるって言われたので。

それなら、ちょっと考えようかなと。

後、教員やるのは1年で良いとも言われたので」

「なるほど。

ディエス教諭、そう言う事は先に言ってくれたまえ」

「あら、うっかりしてたわ」


いま、ディエス先生、小さく舌打ちした気がするけど。

気のせいかな?


「最新の研究か。

ふむ……あまり深い内容は今の君には非公開だが。

そうだな。

今後、一般人に公開予定の物であれば、ディエス教諭の知り合いである君に研究成果を先行公開しても良いだろう」


何か、内容があんまり期待出来そうにない。

でも一応、見てみようかな。


「是非、見せてください」

「見せられそうなものは……705研究室だ。

行こうか」


学園長はそう言うと、立ち上がり、研究室まで案内してくれる事になった。

ディエス先生は、学園長室で待機してるらしい。


——で、私は705研究室で研究成果とやらを見た。

見たんだけど。


(うん、全部知ってる内容)


当然と言えば、当然過ぎる結果が待っていた。

となると、やっぱりこの学園に居る意味はないかな?


「こんな所か、どうかねピメリィ君」

「ここまで、研究出来た教員の方々は確かに凄いです。

でも、私の求めてる内容とは少し違いますかね」

「ほぅ」

「見せられる内容はコレだけですか?」

「そうだな。

あれは成果とは呼べん失敗作ならあるが、その位か」

「なら、その失敗作も是非」

「変わってるな君は。

研究所の方に行った方が良いんじゃないか?

まぁ良い。そういう事なら見せよう」


学園長はさらに別の部屋に案内してくれる。

その部屋には、無数の資料とビンがあった。


「これ見せていいやつなんですか?」

「問題ない。失敗作ゆえな」


それで良いのかと思いつつ、まずはザッと部屋を見渡す。


(ん?)


すると、なぜか1つ気になったガラスのボトルがあった。

中には青の粘液? のような物が入っている。


「すみません。あのボトルは?」

「あぁ、あれか。

あれはな。ある意味今回の騒動の発端と言っていい代物だよ」

「どういう事です?」

「ディエス教諭が再任用で来る事になったのは、クレイユという優秀な教諭が国立魔道研究所が昨日引き抜かれたからなのだ。

で、その引き抜かれた原因がそのボトルの中身。

正確には、その中身の成功作だ」


そんな唐突に引き抜かれるなんて、凄いことをしたんだろうとは思ってたけど、開発をしてたんだ。

で、このボトルの中身はなんなんだろう。

能力で視てみよう。


「…………え?」


視え……ない?


「どうしたのかね?」


アカシックレコードの過去の記録にないデータ?

つまり、この青い粘液を作ったクレイユって人は、未来人、もしくは異世界人……って事?

そ、そんな馬鹿な。

いやでも、実際にこうして視えない訳だし。


「ふっ、ふはは!」

「いや、本当にどうした!?」


面白い。ミリアナちゃんより面白いかもしれない。

未知の存在……。

宇宙へ近づける可能性も出てくるかもしれない。


「国立魔導研究所に行って、クレイユさんに会う事は可能ですか!?」

「いや急にどうした!

そんなに気に入ったのか、マジックスライムが!」

「マジックスライム?」

「そうだ。魔素に応じて姿を変える実験用スライムだ。

これにより、魔素研究が進むらしい」


私、解明どころか全部の魔素理解してるんですが。

それ言ったら、私も研究所行けるのか?


「私、魔素には超詳しいんですが。

会えますか?」

「何故そんなに自身があるかは知らんが、急に会うなど無理だろうな」


まぁ、それはそうか。

ディエス先生の方にも聞いてみよう。

他に気になる物は無かったので、私達は学園長室に戻り、ディエス先生に話を聞くことにした。


「ディエス先生。

国立魔導研究所のクレイユって人に会いたくなったんですけど、出来ますか?」

「え? 教員は!?」

「それはもうどうでも良いんです!」

「いや、よくはないわよ!?」


全力でディエス先生は突っ込んでくるが、正直、教師とかどうでも良くなっていた。

ただ、このクレイユという人が気になって仕方ない。


「国立魔導研究所は、部外者を入れないわ。

言っておくけど警備も厳重だから、下手に侵入も出来ないわ」

「う!」


侵入しようと少し考えてたのを、読まれたか。


「ただ……貴女が優秀な教員と認められれば入れるんじゃないかしら。

そのクレイユという教員がそうだったように」

「研究成果ですか」

「研究成果だけじゃダメ。

教師として、授業もちゃんとしてないと認めないでしょう」

「ですな。

クレイユ教諭は、生徒からの評判の良い優秀な方だった。

研究だけの方ではありませぬ」


そんな教員にならないと……国立魔導研究所には行けないって事か。

やるしかないのか。


「わかりました。

私、1年教師やります!」

「そのいきよ!」

「いや、私が良いと言ってないのだが」


学園長はそう口を挟み、とりあえずと言って、筆記試験から始まる事となった。


(簡単だな)


能力を使わなくても、ほぼ解ける。

尚、使ったので、満点である。


「ふむ……満点か。ディエス教諭が言うだけの事はあるな。

では次は、実技!」


大きめの実験室に移り、指示された魔法をどれだけ正確に打てるかという実技に入った。

威力の大小ではない。

とならば、後はもう魔素をどう組み合わせるかという問題にすぎない。

なら……。


「か、完璧だ……精密すぎる」

「ね? 言ったとおりでしょう?」


この程度、力を使うまでもない。

私自身の力で楽勝だ。


「だが、次が本番だ。

時間もこれまでと違って長く取る!

50分、1年生向けの基礎魔法学授業を50分。

次は実演で行ってもらう」

「良いでしょう!」


いや、基礎魔法学て何? 学校行ってないから知らないよ?

まぁ、能力で見ればそんなの簡単に……。


「ん?」


この感覚は……。


「すみません。

ちょっとお手洗い行ってきて良いですか?」

「構わない。

だが、なるだけすぐに戻ってきてくれ」


わたしはその場から、先を外すと、トイレではなく一目の着かなそうな階段裏に座った。


「何だろう。こんな時に」


――頭の中で遠くの存在と回路を繋げるイメージをする。

しばらくそうしていると、目の前に映像が映し出された。


「ピメリィ——我が天使ピメリィよ」

「女神 エリーサ様」


目の前には、私の神の一柱 エリーサ様が映し出された。


「ピメリィ、様子を少し見させてもらっていた。

単刀直入に言う。

暫く貴女の能力、ぴめぴめこねくとは封印する」

「ぴめ、なんですって?」

「ごめん、アカシックレコード接続能力。

勝手にそう呼んでた」


どんな呼び方してるんだ。

って、封印!?


「なんでですか!?」

「マジックスライムの失敗作。

アレ。こちらの世界、天界で10年程前に連合軍と呼ばれる組織の幹部が使っていた物に似ているの」

「やはり、クレイユは異世界人!」

「いいえ、その幹部は潰した。

転生したか、もしくは技術を持った残党が私の様に天使を派遣しているか……。

何にせよ、警戒する必要がある。

こちらの能力は暫く出すべきでない。

他にも、似た存在がいるかもしれない以上は」


なるほど……確かに言う事は分かる。

分かるんだけど。


「あの、能力使えなかったら、試験落ちるかもしれないんですが?

落ちたら、宇宙に行ってアレを実行するという目標への糸口も掴めなくなるんですよ!?」

「貴女なら大丈夫。

だってほら、ハルトと同じで二言はない、なんでしょ?」

「いや、それはそうなんですけどね!?」


だとしても、科目の内容も分からない授業を50分もやるのは、普通に無理でしょ。


「それと、昨日私達神の名前を出したみたいだけど。

それもダメ」

「ですね」

「父母にしなさい」


それは良いんだ。


「名前は村木ピメリィのままで、行きましょ」

「警戒する気あります!?」


まぁ、確かに突然苗字変えるのもおかしいけど!


「というか試験前に能力封印する必要あります?

終わってからでも」

「すぐ分かる」


エレーナ様はそう言うと、通信を切ってしまった。


「……試験どうしろとおおおおお!?」



私は意気消沈しながら、学園長室へ帰っていった。

すると……。


「君、どういうことかね!?」

「え?」


なにやら、複数の教師が学園長室に集まっていた。

さっき見た顔ばかりだ。


「突然抜け出したかと思ったら……。

君はディエス先生じゃなくて、ピメリィという名前らしいじゃないか!」


あっ、その事か。

色々ありすぎて、この問題をすっかり忘れてた。


「全く、ピメリィ君がそんな事をしていたとはな。

立派な不法侵入だぞ」


学園長は呆れたようにしてそう言う。


「でも、さっきの貴方達教員の話を聞くにね。

誘導の不手際の可能性もあったそうじゃない?

一概に攻める事は出来ないわ」

「それにしてもだろう!」


うーん、言い争いが始まってしまった。

でも、私としてはここは……。


「皆さん!」


全員が一斉にこちらに振り向く。


「確かに私はディエス先生じゃ、ありません!

ですが!

私のこれまでの採用試験の成績は完璧です。

コレほどの結果を残せる人が他にいますか?

居ませんよね? ですから!

ディエス先生と同等以上にこなす事が出来る!

だから問題はない!」


滅茶苦茶な理論だけど、言ってやったぞ……。

最後の試験は、出来る見込みは何も無いって言うのに。

でも、ここまで来たらもうやるだけ。


「そこまで言うなら、我ら全員で最後の試験科目を見届けようではないか。

その結果次第では、その言い分を聞く」


教員達も納得したみたい。

ディエス先生も満足そうに微笑んでいる。

やるしかない、やるしか……ないね。



私と教員一同は空き教室に移動し、試験が始まる事となった。

教師相手に模擬授業という訳だ。


「ピメちゃん、人も増えた事だし。

まずフルネームと年齢と職業」

「ピメリィ・ムラキ。27。

職業は……行商人です」

「よろしい」


そう言ったのは、教頭と思わしき中年。

さっきから教員集団の中で1番発言していた男だ。


「ピメリィ・ムラキ!

これより教員採用試験 授業実演を開始します!

1年生向けの基礎魔法学授業を50分行ってみせなさい!」


教頭がそう叫ぶ。

それが試験開始の合図だ。

ここにあるのは、黒板とチョークのみ。

道具としては、まぁ十分だろう。

にしても、つい1時間前まで私は教師やりたくなかったのに……。


(なんでこうなったあああああ!?)


思わず、心の中で叫んでしまう。

だが、そんな事をしてる暇はない。

試験は始まってる。

内容が一切分からない基礎魔法学の授業……。

そんな物、出来る訳がない。

でも。


(普通じゃないやり方なら、あるいは)


私はそう思い、授業を始めるのだった。

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