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第4話 種明かしはハッタリと共に

「なるほど納得! 記憶消すには殴るが1番!」


そう言って、ピメリィはミリアナの方に1歩踏み出す。


「私が全部解決してあげるよ! 今からね!」


それに対してミリアナも踏み出し、攻撃の姿勢をとった。


守りを捨てたわけではない。

ミリアナが先ほどから拳に纏っているのは、触れた相手の意識を刈り取る対人攻撃魔法 通称「スタン」

相手との魔力差や、防具によってはまるで効果の無い魔法だが、ミリアナが見るにピメリィの魔力はミリアナよりは低く、また身に纏う服も大した対魔力が無い。

つまりは、今ミリアナの拳が一撃でも当たれば、気絶するのである。

否、それどころか掠っただけでも意識が飛ぶだろう。


(こちらに、踏み込んできた瞬間に叩き込む)


そうすればピメリィは気絶し、次の攻撃を喰らう事は確実にない。

つまりは――攻撃こそ最大の防御!

そう思い、ミリアナは思いっきり構える。

だが!


「飛べ!」

「!」


ピメリィが次にとった行動は、ミリアナの予想外だった。

上着の懐から丸い塊を取り出し、魔力を込めて飛ばしたのだ!

近接戦を仕掛けるのかと思い、反応が遅れたミリアナだったが……。


「甘い」


その塊の回避には成功した!

しかし。


「ハッ」


次の瞬間、ピメリィ本人がもうミリアナの近くにいる!

拳を握りしめているので、恐らく殴りかかろうという事だろう。


「まだ甘い」


ミリアナのハーフオークでも追えないスピードなら、まだ躱せる。


「エンチャントッ!」

「なっ」


ピメリィは自身の体に強化魔法をかけ――次の瞬間、姿が見えなくなっていた。


「0.5秒。

ごく普通の強化魔法でも発動時間を絞って、質を上げれば、爆発的に身体能力を上げられる――。

知らなかったみたいだね」


その声は、ミリアナの後ろから聞こえる。

当然、ピメリィの声。何が起きたとミリアナは振り返ろうとするが……。


「動けない?」

「えっ、声は出せるんだ。やっぱ不完全だなぁ」

「どういう事」

「まぁ、話せるほうが都合良いから、丁度良いか。

見える方行くね」


そう言うと、ピメリィはミリアナの正面に立つ。

その手には、先ほどミリアナの方に投げた謎の丸い物体が握られている。


「何を――したの?」

「動けなくした?」

「それは分かる。

そもそも何故さっき拳を当てなかったの」

「拳を? あっ、もしかして殴ると思ったの?

そんな事する訳ないでしょ。私の目的は初めからこれ」


ピメリィは、手に持っている謎の物体を掲げた。


「なにそれ」

「色んな商会でお金の取引した時の使用済み印紙をこう……ぐしゃぐしゃってして丸めた奴?」

「……」


要は、服に入ったままのゴミを投げつけたという事らしかった。

ミリアナはゴミを投げつけられたという事と、ただのゴミを危険物と思ってしまった自分自身になんとも言えない気持ちになる。


「そんな顔しないで!

違うから! 単にゴミ投げた訳じゃないから!

そこにある巨大化植物を利用して、ミリアナちゃんを呪縛する為には必要だったの!

言っても、分からないと思うけど!」

「!」


ミリアナには、ピメリィの言う事が理解できた。

なぜなら、()()()()()()()()()()だから。


「紙を持つ者を、呪縛——動けないようにする能力を持つ魔植物がこの場に生えてる。

そんな辺り?」

「どうして分かったの!?」

「あくまで予想」


ミリアナが先ほど、ディエスの拘束を抜け出した方法。

それは、ディエスから貰った名刺を()()()する事だった。

名刺の事をペラペラ喋っていたので、動けない鍵も恐らくそこにあるだろうと思って、無力化してみたら、案の定動けるようになったという訳だ。


それに加え、ミリアナは動けなくなった原因はこの場の植物にもあると踏んでいた。

名刺を貰ってすぐは動けたのに、この場で動けなくなったのは怪しい。

授業に使う植物に、直接害のある魔植物が混じっている訳がないので、明らかにディエスの術だと考えた。

確かに動けなくなった瞬間、植物はまだ巨大化していなかったが、巨大化前から植物の操作自体はしていたと考えれば、辻褄は合う。

ディエスは、数十分も名刺の効果でミリアナを農園で泳がせていたが、アレは呪縛が効くまでの間、時間を稼いでいたと考えればこちらも辻褄が合う。


「なるほど。

あの時、動けなかった理由は私の予想通りだったという事」

「?」

「でも、疑問は余計に出る。

今、紙を持ってるのは貴女。私は持っていないはず。

そもそも、さっきそれは、()()()のであって、拳を当てなかった事とは関係ない」

「それはね――」

「後、何よりの疑問。

貴女、私を拘束したのになぜディエスの方に行かないの?

彼女を探しに来たのに」

「うーーーーん」


それを聞いて、ピメリィは唸りながら困った。

そして――。


「まず、このままだと確かにディエス先生は死ぬ。

死ぬけど……後少しは大丈夫。

だから、今はミリアナちゃんの方が優先」

「どういう事?

そもそも、私の見立てだと彼女はもう死んでる。

私が言っているのは、遺体の回収で」

「いや、死んでないのは一目で分かるよ。

そこからも見えるでしょ。

……周りの植物が少しずつ枯れていってる」


そう言われて、目を凝らすと確かに巨大化植物が少しずつだが、萎えているようにミリアナは思えた。

だが、本当に少しずつなので、こんな物は普通言われないと気づかないだろう。


「ミリアナちゃんの攻撃を避けながら、まず私はこれに気づいた。

魔力の流れを見てみると、植物の力がディエス先生の方に行ってるの」

「よ、避けながら?」


ミリアナは速さには自信がある方だ。

これまで補助魔法を使えない故、生身で素早いモンスター達を追跡し、撃退してきたからである。

ピメリィは、そんなミリアナの攻撃を先ほどまで、強化魔法を一切使わず避けていた。

にも拘らず、周囲を観察する余裕があったのだ。


「ディエス先生は植物の力を吸収してる。

多分、無意識の内に回復の為に吸収してるんだよ。

ちなみに、ミリアナちゃんが今喋れるのもその影響。

魔植物が枯れていってて、呪縛も弱くなってる」

「あっ」


そこで、ミリアナは気づいた。

確かに少しずつだが、体が軽くなっている事に。


「ディエス先生になぜそんな事が出来るのかは知らないけど、この際どうでも良い」


知らない、と言う事はピメリィは、ディエスの特級危険種の紋様の事は知らないようだとミリアナは思う。

なら、一体どういう関係なんだろうと疑問に思いながらも、話の続きに彼女は耳を傾ける。


「これなら、枯れるまでディエス先生の命は大丈夫。

このペースだと……10分弱って所かな」

「短い」

「その通り、急がないとまずい。

()()()、ミリアナちゃんにまずは話してる」


だから、とは一体どういう事だろうか。

そう思うなら、まず回復魔法をかけるべきではと内心思いながら、ミリアナはひとまず話の続きを待つ。


「そうだね……まずは、納得してもらう事が大事だから。

順に答えていくよ。

さっき私はこの紙の塊を投げた。

魔法で、ミリアナちゃんの体に付着させる為にね。

でも、これは予備の策。躱される事も想定済み。

本命は、今貴女の体に張り付けている上質紙なの」

「えっ!」

「さっき、私はさっき上質紙を手の中に握ってたの。

それをすれ違いざま、服に接着の魔法で張り付けた。

気絶魔法を避けるために、自分に0.5秒の強化魔法をかけてからね。

紙縛り草……って私は呼んでるんだけど。

紙を持ってる生き物に呪縛をかけるあの草はさ。

質の良い紙程、強力に呪縛をかけられるから、上質紙の方が効果が高いかなって」


なるほどと思いながら。

ミリアナは先程から、内心ずっと疑問に思っていた当然の事を口にした。


「その紙縛り草、紙を持ってると呪縛にかかるなら。

なぜ、貴女はさっきまで大丈夫だったの?」

「んー?

紙縛り草の呪縛は一定時間はその草の放つ空気を吸わないと、効果ないからね。

効くまでの時間に個人差もあって、私は何時間か吸って、効かなかった事あるよ」

「じゃあ、その上質紙はどこで――」

「いや、ミリアナちゃんメッチャ聞いてくるね!?」

「気になる事が多くて……。

私、研究者になりたくてこの学校に入ったから」

「そうなんだ、そもそもハンターやめたんだね……。

って、そうじゃない!」


ピメリィは、地面を軽く蹴った。


「納得してもらうために、まず質問に答えようと思ったけど。

これじゃあっという間に10分経っちゃう!

もう仕方ないから、単刀直入に言うよ、ミリアナちゃん!

貴女がさっきから、私に攻撃しながら撃とうとしてた()()()()あるよね?」

「な、んでそれを」

「気づく。普通に考えておかしいでしょ。

なんで闘技場で「()()」で強かったミリアナちゃんが私に「()」で来るんだろうって、その時点でおかしいって思った。

そうして、足元を見てみたら案の定……ステップが独特だった」

「!」

「まーさか、あの魔法をミリアナちゃん位の年の子が使えるなんて思わないから、私も疑ったよ。

でも記憶を消すなら、こっちの方が効果的みたいな事、ついさっき言ったでしょ?

あれで確信に変わったね。

ミリアナちゃんは、攻撃魔法しか使えない。

記憶操作は大きな分類では補助魔法。

今、拳に纏ってるのも気絶させるだけの魔法。

じゃあ、どうやって記憶だけ消すの? って話になるけど……。

この魔法が使えるなら納得できる」


ミリアナは驚愕した。自分のこれまでの行動が完璧に読まれている。

これが何らかの魔法を使って読んだということなら、まだわかる。

しかし、ピメリィはその洞察力と推理のみでここまで当ててみせた。


「そ、それ、なんの魔法?」


苦し紛れにミリアナはそういう。だが、ピメリィはハッキリとこういった。


魂焼(こんしょう)。魂そのものを焼く上次元の概念攻撃魔法。

こんな魔法の使い手……人間では初めて見たよ」

「!」

「あの独特なステップを踏んで、魔法を展開すれば、相手の魂の好きな部分を焼けるんだって?

当然、()()()

撃たれたらまずかったから、発動直前でこうやって捕まえられて良かったよ」

「発動直前と言う事も分かっていた?」

「勿論。

それに私が来る前に魂焼を発動させて、自分の服の中にある上質紙の魂を焼いた事もね。

状況を見るに、ディエス先生に紙を仕掛けられたんでしょ。

だから、無詠唱の魂焼で上質紙の魂を丸ごと焼いて、呪縛を解いた。

無詠唱でも、焼く対象を丸ごとにしてしまえば焼けるんでしょ?

でも体内に紙縛り草の空気は残ったままだから、また上質紙を持てば、こうして縛られてしまう訳」

「まさか、紙の塊を投げた時点でそこまで」

「うん。まぁ気づいたの直前だけど」


ミリアナは、目の前の人物に畏怖の念を抱いた。

一見、自分と大して年の変わらない少女だ。

でも、その分析力は自分に比べて、尋常ではない。

そして、知識が同世代と思えない豊富さだ。


「にしても、無機物の魂も焼けるなんて恐ろしい技。

――ここからが本題。

そんな恐ろしい技を使える稀代の天才のミリアナちゃんにお願いがあるの」

「なんですか」


気づけば、ミリアナはピメリィに対して敬語になっていた。

先ほどの会話で彼女の凄さを思い知ったからである。


「その魔法でディエス先生の怪我の治療をすることは出来る?」

「え?」


魂を焼いて? 怪我の治療?

一体どういう事だとミリアナは思う。


「出来……ないと思います」

「じゃあ、ミリアナちゃん。提案があるんだけど……」


ピメリィは静かにこういった。


「その魔法、1回私に預けてくれない?」



ミリアナちゃんは、呆気に取られたようにこっちを見てる。

まぁ、そうなるよね!

でももう一押しだ!

確実にさっきよりは信頼されてる!

感情の薄いクールキャラだったミリアナちゃんが、少しずつ感情を出してきてる!

なんか、敬語になってるのが気になるけど!


「簡単な話!

まず、ミリアナちゃんが普通に魂焼を発動させる!

すると、どうなるの?」

「辺り一帯が青いの陣で覆われて、青の光線が大量に発生します」

「なるほど」


……そうなんだ!

正直、魂焼なんて()()()()()()()()から、そこまでは分からなかった!

()()()()()()()()()()()()を見てなかったら、確実に知らなかった魔法すぎる。

なんか魂焼の事、色々知ってる風にハッタリしたけど、普通に私さっき知ったばっかだ。

我ながら、この魔法に賭けようと思ったのは狂ってる気がするけど……。

残念ながら、今の私だとディエス先生を完全に回復させる手段はこれしかない。


「……じゃあ、その光線を私が制御する。

そして、魂焼の効果を利用して、ディエス先生を私が治療する」

「そんな事できるんですか?」

「出来る」


かは分からない。


「さすがです」


ミリアナちゃんに、キラキラした目でそんな事を言われてしまった。

出来るか分からないのに。


「ミリアナちゃん、私は貴方を犯罪者にしたくないの」

「でも、傷を治した所で普通に犯罪者では?」

「それはそうかもだけど――。

ん? ひょっとして……いや状況的に分かってはいたけど。

正当防衛で反撃しただけでしょ? これ?」

「まぁ、そうです。

ディエス先生に襲われて、反撃したらこんな事に……」


犯罪者も何も元々、無罪じゃん。いやでも、証言が無いか。

それにミリアナちゃんが魂焼が使える程、強い事がバレたら、過剰防衛扱いになって捕まる可能性もある。

というか、そもそもディエス先生には死んでほしくない。

教師として戻ってもらわないと、私が困るからね!


「ミリアナちゃん。張り付けた紙を剝がすから。

魂焼を発動して。

ディエス先生が助かって、貴女も無事に済む。

そういう結末を、今から私が作る」

「……分かりました。信じます」


私は、ミリアナちゃんに粘着魔法で張り付けた上質紙を剥がす。

すると、動けるようになった。


「魂焼はもう今日これしか打てません。

展開時間は1秒しかありませんから、速攻でお願いします!」

「えっ、ちょ」

「行きます!」


私が小声で狼狽する間に、ミリアナちゃんは独特なステップを踏み始めてしまった。

い、1秒!? 短すぎでしょ!

だって、まだディエス先生、岩の中だよ!?

あぁでも――。


「やると決めた。その言葉に二言はない!」


私は、ハルト様から受け継いだ信念を口にし、行動の準備をするのだった。

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