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第1話 観光で闘技場賭博する

そこは、全ての始まりの場所。

俺の戦いが始まるきっかけとなった場所に、そいつは逃げもせず静かに佇んでいた。


「何を平然としてやがる。

お前がこれまでの戦の元凶だって事は、もう分かってんだぞ。

俺だけじゃない連合軍全体がな」

「でも、ハルトは1人でこの場に来た。

それは——どうして?」


眼前の少女は、静かに笑って俺を見上げる。


「………………決まってんだろ、エリーサ。

俺は、俺だけは、お前の味方してやるってんだよ。

あの時、どんな事情があろうと守ると決めた。

男に二言はねぇよ。

仲良くなった奴らと敵対する位、構わねえ。

それにお前も知っての通り、俺は高校生にして天涯孤独の身だからな。

逆に家族への危険はねぇって訳よ、安心だろ?」


少女——エリーサは俺の言葉を聞くと、ため息を吐いて、微かに笑った。



第1話「観光で闘技場賭博する」


居住者の大半が人族の大国「ガルドル」

その国の大都市、「ナパッタ」にて、私は観光をしていた。


「さぁ張った張った!

ハーフオーク ボルタチームVSハンター ミリアナチーム!」

「おー、賭博やってる」


各チーム5人、5分間の試合。

武器は打撃武器のみ使用可、魔法は強化魔法のみ使用可能。

勝敗、引き分けを予想するみたい。

今、手持ち結構あるから、やってみようかな。


「売り子さん!」

「おっ? どうした嬢ちゃん?」

「ミリアナチーム全勝で10000エタシュ下さい」

「ミリアナチーム全勝!?

10000エタシュとは中々強気だな?

見た所、あんた旅人だろ。

1万もありゃ、良い宿泊まれるぜ?」


エタシュはこの「ガルドル」を初めとした人族中心の国で主に使われている貨幣。

10000エタシュは、この大都市「ナパッタ」のそこそこ良い宿で1泊出来るくらいの金額。

誰でも出来るような軽作業の日給は、4000エタシュ位。

確かに強気かもしれない。


「それに、ミリアナチーム全勝はありえねぇよ。

ハーフオークのボルタチームと人間のミリアナチームじゃ、生身の身体能力が違う。

確かにミリアナチームは上位クラスのハンターだから、強化魔法さえ唱えられれば、圧勝すらあり得るぜ?

がな、残念な事に月光チームの中には攻撃魔法しか使えない奴が1人居るんだぜ。

「攻撃魔法しか使えない奴?」

「……肝心のリーダーのミリアナだ

見えるか? 丁度あそこに居るぞ」


指差す方をみると、そこには小柄で私よりも少し背が低そうな銀髪の女の子がいた。

私も低い方なので、かなり小柄なんだろうなと思う。

確かに、あれで強化魔法も無しに打撃武器だけで、ハーフオークの人達と試合をするのは無理そうだけど……。


「あの体格かつルールを知った上で、この試合に出ると言う事は、逆に勝算があると思いますよ。

それに二言はない、というのがこれ私の信念なので!」

「ほう、潔いじゃねぇか

嬢ちゃん以外に全勝賭けてる奴は殆どいねぇから、勝ったらデカいぜ」

「ふっふっふ! それは良いですね!

では、我が主神、村木 エリーサ様と村木 春人様に勝てる様お祈りします!

試合後に会いましょう!」


そう言って、私は足早に試合の席と向かった。


「そういう問題かよ!

……って、なんだ? そんな名前の神様居たか?

細けぇ事は良いか。

ほら、そこのお客さん! 寄った寄った!」



「ウオオオオオオ! ミリアナちゃん超つええええ!!」


試合後、観客席から猛烈な叫び声が上がっていた。

その叫び声の主は……。


「こっちか! 嬢ちゃん静かにしろ!」


わ た し で あ る。


凄まじい試合だった。月光チームは、全員精鋭だ。

1試合目から、強化魔法で体格の勝るハーフオークチームをKO。

その流れが4試合まで続き、5試合目。

肝心のミリアナちゃんの試合になったのだが、これが1番強烈だった。

ハーフオークチームのリーダー ボルタが素手で殴りかかった瞬間、身をかわし……。

ボルタの空振りした拳を斜め下へ引っ張る事で、体勢を一瞬崩させた。

そのままどうするのかと思ったら、何とミリアナちゃんはボルタの背後に回って、一回転ジャンプをし、そのままの勢いで、脚を首に巻きつけた!

そのまま脚で首を締め付けると、ボルタは耐え切れずKOしてしまうのだった。


「脚で締め技なんて鮮やかすぎる!

良い試合だった! ミリアナちゃんありがとう! ありがとう!」

「うるせぇんだよガキが!」

「さっさと出てけや!」


私に対するブーイングが飛んでくる。

おかしい。

お金賭けてる試合って普通は、選手に対してのブーイングじゃないの!?


「うるせぇー、おっさん観客共!

お前ら全員外れたんだろ!」

「んだとメスガキが! 表でろやコラぁ!」

「おぅおぅ! 出てやるわ!」

「おい、なんかこっちの方が面白そうじゃね?」


なんか、私の方が見世物みたくなってきた。


「売り子のおじさん!

金の受け取りには後で来るからよろしく! コイツらボコして来る!」

「いや、今受け取れよ!」

「何だと!」

「俺までキレるな! 何だこの子!?」



「やれやれ。

俺達のパーティ記念すべき最後の試合だってのに、とんでもない事になってるな。

外に出てった観客、何なんだあいつは」


ミリアナのパーティの副リーダー 月光は呆れたような目で観客席を見つめていた。


「確かに……。

人間とも、超人種とも、亜人種とも、違う気配をあの女の子から微かに感じた。

何者だったんだろう」


ミリアナは静かに、そう言った。

試合後だというのに、その額には汗1つない。


「いや、俺が言ってるのは行動の方で。

って、そんなおかしな気配したか?」

「ごめん、ただの変な人かも」

「おい、じゃあ俺の言ってる事合ってんじゃねぇーか」

「それよりも月光」


月光の言う事を無視して、話を進めるミリアナ。

しかし、その表情は至って真剣——。


「私は、明日からシャーリア魔法学園の生徒になる。

改めてだけど、このパーティの事は任せたよ」

「その事か。

勿論、任されたぜ。

何なら学園やめたくなったら、いつでも戻って来いよ」


そう言って月光は、にこやかに笑う。だが


「もう戻らない。

私はハンターとしての経験を活かして、研究をしたいの。

始めからその為にハンターになったんだから」

「あんだけ動ける研究者とか珍し過ぎると思うが。

勿体ねぇなぁ。まっ、お前の選んだ道だ!

年上の男としては見送ってやるさ!」

「ありがとう」


ミリアナはそう言って、笑うのであった。


——一方、この和やかな別れの瞬間、外では大騒ぎをしている女が居た。

その者は言うまでもなく……。



「ねぇ観客のおっさん達ぃ、その程度かな!?

話にならないね! もっと骨のある奴は居ないの!?」

「こいつヤベェ! 強過ぎるって!」


私に絡んできたおっさん達は、蜘蛛の子を散らすように逃げていった。

見物人たちは、呆然としたように見ている。

ふっ、軽くこんなもんでしょ。


「おい、嬢ちゃん」

「あっ、売り子のおじさん」

「お兄さんと呼べ、それよりお前は払戻金無しな」

「……へ?」


な、なにを言ってるの?


「ちょ、ちょっとおかしいでしょ!

全勝したじゃん!」

「迷惑料だ。

お前が騒ぎを起こしたせいで、次の試合の観客がこっちに来ちまってるじゃねぇか!

お前のせいで売り上げがダウンだ!

追加で、罰金を取らないだけ良心的だと思えよ」

「そ、そんな馬鹿な!

ちなみに全勝は何倍になったの!?」

「1523倍だな」

「15230000エタシュってこと!?」


この都市に、小さなマイホームが持てるくらいの金額である。


「それを無効だなんて、やりすぎでしょ!

せめて半分――」

「無理だ。じゃあな」


そういうと、売り子のおじさんは足早に去っていった。


「……ちくしょおおおおおおお!!!」



「はぁー」


その日の夜。私は宿屋でため息を付いていた。


「確かにお金に余裕はあるけど、あれだけの大金を逃すのは……はぁ。

絡まれたのは私だし、自力で逃げられるくらいにしか攻撃してないんだから良いじゃん!」


思わず実力行使で奪い取りたくなってくる。

そんな事は勿論しないけど。


「まぁ、この街での観光も飽きてきたし、丁度良いか。

後気になってるのは……シャーリア魔法学園くらい、か」


この国は大国だけあって、無数に魔法学園がある。

シャーリア魔法学園はレベル的には、至って平均の普通の魔法学園である。

だが、それが逆に気になっていた。


「この国の普通っていうのが気になるな~。

よし、明日行ってみよう」


そう決めて、私は床につこうとする。

と、その前に。


「主に報告。これは絶対に欠かしちゃいけない」


――頭の中で遠くの存在と回路を繋げるイメージをする。

しばらくそうしていると、目の前に映像が映し出された。


「すまん、出るの遅れた! 会社が残業だったんだ!」

「いつもの事では?」

「それは言うな」


映像には、私の創造主の1柱が映し出された。

映像の先は日本という場所、私から見た天界だ。

でも、話を聞くに苦労も多いらしい。


「じゃあ、ピメリィ。

いつも通り、そっちでの今日の出来事を教えてよ。

俺、それが楽しみであの仕事(くぎょう)をしてきたんだからさ」

「お、お疲れ様です」


私を作った神様は二柱いて、特に村木 春人様は苦労人だ。

神様なのに、今日も大変だったんだろうなと思う。


「今日はですね。「ナパッタ」で観光をしている時に闘技場でギャンブルを――」



「かー! そりゃ酷いな!」

「ですよね!」

「あぁ!

……お前も悪い気がしなくもないが」

「え? 主様?」

「い、いや何でもない。

お前は俺達が作った天使の中でも、エリーサの性格寄りだからな。

うん、そうだエリーサが悪いんだ」

「エリーサ様は別に悪くないと思いますが……」

「いや、あいつは悪い!

この間だって家に居て家事もしないくせに、冷蔵庫にあった俺の――」


主様の愚痴が始まる。

でも、その様子はどこか楽しそうだった。

そして、最後に。


「ま。でも、10年前、高校生の時に決めたからな。

どんな事情があろうと守るって。

()()()()()()()()()()()()()()()()

()()()()使()()()()()()今、()()()()()()()()()()()()

それは良かった、良かったが――あいつは悪い所、直してほしいなぁ!」

「主様楽しそうですね」


私は、少し笑って言葉を続ける。


「私は、明日シャーリア魔法学園に行きます」

「魔法学園か。事件が起きそうだな、気を付けろよ」

「承知しています。では、主様。

他の天使とのお話もあるでしょうし、明日のお仕事が早いと思うので、私はこの辺りで」

「うぅ……そうなんだよな。

無理だけど、俺も異世界行きてぇ……」


私から見れば、天界の方がよっぽど羨ましいのに。

わざわざ下界に降りたいなんて、神には神にしか分からない苦労があるんだろうな……。


「が、頑張ってください。では!」


私は主様との接続を切った。

さて……。


「明日は魔法学園。どんな場所か分からないけど、楽しみだな」


期待に胸を膨らませて、私は床につくのだった。



「うぅむ、弱ったな」


シャーリア魔法学園学長室。

そこでは、学長を含む数名が会議を行っていた。


「明日から9月。新入生が入るタイミングというのに……。

まさか、この直前でクレイユ教諭が国立魔道研究所に引き抜かれていなくなるとは。

今年は新入生の数が多い。このままでは教員の数が足りん。

皆、何か案はあるか」


学長は集まった学園の有力者たちにそう切り出した。


「まずは、引退した教員に一時招集をかけましょう。

その間に、募集をかけるのが最適かと」

「確かにそれが無難だろうな。一時招集は恐らくすぐに集まるだろう。

して、教員募集は素早く行って、どの程度かかる?」

「1~2ヵ月でしょうな」

「ふむ、早くてその程度か。

全く国立魔道研究所め。こちらの事情も少しは考えんか。

シャーリアも国立だから、あまり強くは言えないのが悲しい所だが」

「ともかく、その案で進めていきましょう。

最も、良い人材が見つかればすぐかもしれませんよ」

「それは楽観的すぎるだろう。

仮にも、この魔導学園は国立。教師の務まる人材が早く見つかる訳がなかろうて」

「はは、それもそうですな」



宿屋で眠る少女、ピメリィ。


「むにゃむにゃ――」


彼女はこれから先に学園生活が待っている事を、まだ知らない――。

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