転生する少年
どうぞよろしくお願いします
昔から物覚えは悪かったが、状況を読むのには長けていたと思う。恋愛感情だったり後ろめたい感情を汲むのは容易だった。
その上で自分の身の振り方を人によって状況によって変えていた。
親の前では無邪気な子供になり、友人の前では馬鹿な奴になる。
実は勉強ができたという設定はないが、かといって馬鹿な奴ではなかった。
どちらかといえば合理的なタイプだったと思う。
「勉強ができない奴」と「馬鹿な奴」は呼応関係は成立していないということだ。例えるなら東大生でも犯罪を犯す奴は結構いる。そしてその記事を目にするとこう口にする。
「馬鹿だなこいつ」
馬鹿な奴というレッテルは人間関係を短絡的にできる。
適当なこと適当に言っておけばいいのだ。
それが楽で賢い生き方だと思っていた。
自分が自覚的に無知であり、それが無知の知だと思っていた
しかしその考えは軽薄で稚拙だったと痛感した。
自分が馬鹿だと言う事実は否応なしに自分の醜さを認識させる恐ろしいことだったのだ。
死んで一つ賢くなれたのでまぁよしとしよう。
それより現実に向き合うべきだろう。
現実の状況を読むべきなのだろう。
そう輪廻転生したのだ。特に動揺はなかった。
あり得ない事象も起こってしまえば真実だ。
ところで、描写が遅れたが勿論人間だ。
また人間なのかという多少の口惜しさはある。
生後間もないので体の操作の融通が効かない。
ただ前世の記憶があるというのは形容しがたい奇妙な感覚。身体の不都合とは裏腹に思考は鮮明なのがこれまた奇天烈だ。
異世界にでも転生できたかと期待したが窓から差し込む日光がそれを否定した。まああの光源が太陽だという証明はできようもなく。太陽系外惑星なんかもあるわけで…自転が24時間周期なのを概算で確かめて馬鹿らしくなったので考えるのをやめた。
両親と思しき男女が何やら会話をしているがどうやら日本語ではないらしい。英語でもない上舌を巻くようなロシア語でももなくその他ヨーロッパ圏の言語なのか学力が乏しい俺には分からなかった。
女の顔立ちは整っており体型は細い。髪は肩まで伸びていて瞳と同じブラウン色をしている。
男の方は髪と瞳の色は女と一緒だが体型は屈強で顔立ちは男らしいわけではないが美形だ。短髪で髭と一緒に綺麗に整えられているのをみると几帳面なのが分かった。
日中ほとんどの時間を横になって過ごすので建物の構造を観察して時間を潰した。
初め見た時にはギリシャ建築だと思った。
石材が上手く加工されており断面が正確に合わさっている。
柱も多く、何よりその均等さが特徴的だった。
ただバロック様式の特徴にある柱頭にはアカンサスの葉の模様がなく代わりにロココ様式で用いられる女性らしい曲線をモチーフにした繊細なデザインが施されていた。
現在地をヨーロッパ辺りだと思った。
裏付けるかのように食卓にはフォッカチャのような平たいパンとチーズ、ワインが定番だった。
電気機器類は配備されていないので過去にタイムスリップしたのかと考えた。古代ローマあたりだろうかと思ったが当時のローマ帝国ではウール素材の服装を主としてたことを思い出し確証には至らないと判断する。
まぁ後々分かるだろうと思い考えを後にした。
二年も過ぎると歩けるようになりしきりと本棚に向かう。
文字を覚えるのにはあまり苦労はしなかった。
文法が日本語と似ていたし、なにより覚えが早く琴線に触れるが如く文学を勤しんだ。
色々読み漁っていると、いよいよ本当に異世界なのかと動揺した。
歴史、文化、地図何をとっても前世とは違い、
本棚にある歴史書の数が多く一通り目を通すだけでも半月はかかった。
本の価値が庶民価格で入手可能なのだろうと予想し文明レベルも高いのだと思ったが建築が石材なのを考えると整合性が取れないと困惑した。
決定的だったのは「世界地図」で大陸が一つしか無かったのだ。
その他の情報は専門的な語句が多く一ページ読み込むのに数日を要した。
そんなことをしていると時の流れは早く一年半と時が経ち
発音をマスターしてスムーズに会話ができるようになった。
色々あった疑念を「これは何?」と子供らしく幾度となく尋ねる。両親共々勉強熱心な賢い子供という認識で不審がられることはなかった。
剰え「この子は天才よ」などと褒められた。
両親との会話は楽しかったがまるでお伽話でも聞いてるような感覚だった。
どうやら世界情勢は三つ巴の冷戦状態。
大陸の西側を大きく陣取る「クロルフ」
北東に位置する「ガノマ」
そして国土面積の1番小さな「アイラノク」
俺の故郷はクロルフとガノマの国境近くに位置する小さな村だが国籍はクロルフだ。
クロルフでは西側を大きく領土とする国で元々は小国が多数あった。それを連邦国へと武力でまとめ上げたのだ。
そのため内紛が多く治安としてはあまり良くないらしい。
父は村の自警団に勤めており訓練を欠かさないと語っていた。
3歳も終わりを迎えるころには
外にもよく遊びに行くようになった。
小さな村だが舗装された道路には人々が行き交っており
人種はやはり欧州人であると感じた。
建築様式の違和感は多々あり自宅のような石材建築は然り木材を主にした和風建築、煉瓦造りの煙突が目立つ大きなコロニアル風様式の屋敷もあった。ただどれも実用的で日光を考慮した間取りであったり基礎となる部分は欠かしていなかった。
市場ではオリーブや柑橘系が多く地中海型農業が盛んなのだと結びつく。さらに四季の区別もはっきりしてい夏季には降水量も少なくイタリア南部での特徴と一致していたが偶然で片付けるしかなかった。ここが地球であるという証明は悪魔の証明と等しいことはもう悟っていた。
前世で見たニュースの記事が確か……結びつけようとしたが、
気分が悪くなった気がしたのでやめた。
突然とは前触れもなしに急に何か起こるさまのこと。
4歳を迎える頃に父があまりに自然な流れで
「そろそろお前も使える頃か」といい指を鳴らす
パチンという音と共に火の粉が舞う。
無機質の空間に有機物を生むその現象はまさしく奇蹟であった。俺は口大きく開けたまま固まり
「感嘆の声を漏らす」では表現しきれない唸り声がこぼれ落ちていた
ありがとうございました