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無知な少年

どうぞお手柔らかに

「無知の知」という言葉をよく耳にするが、自分が無知だと理解するのにはそれなりに教養がいる。

その理解がある時点で人類が社会で生きていく素養としては十分すぎるくらいだが、人間誰しも知識の有無に差異があるのは先刻承知のことだろう。

しかし知見を広げるのに必要なのは個人の才幹ではなく時間である。よって無知の知を得ているものはそれすなわち博識である。

放課後の教室。最近の話題になっているニュースについて聞かれ俺はかぶり振った。

 すると友人が「お前は本当に何も知らないんだな」と悪態をつくので、俺は一度肯定してからそう反論した。

友人は溜息をついて

「意味のわからないこと言ってないでとりあえず読んでみろ」 と俺の屁理屈に真面目に応答せずスマホの記事を開いて、差し出す。

 

 《令和5年 2月20日考古学的大発見 15万年前に日本人が?!見るなと言われたら見るしかない》

 

 随分と煩い見出しだな…。

 

 イタリア・ローマ中心部から用紙が発掘されたことを発表。

6億年前の地層からの発見。

 本来紙の発明は2世紀頃によるものですなわち6億年前に文明があった可能性があると各専門家に衝撃を与えた。用紙には記号のようなものが羅列されてまるで魔法陣を形成していた。その上には日本語で「みるな」と震えた文体で書かれており謎が謎を呼ぶ状態だ。

保存状態も良く損傷も少ないうえイタリアの地層からの日本語の書かれた用紙の発掘――この事を専門家は

 「保存方法もそうだが謎が多すぎる。明らかに常軌を逸した何かがあるだろう」と困惑した様子だった。

 ともあれ歴史的事実を大きく覆す大発見となった。

 これに対してネットユーザーは「捏造だろ」など否定的な意見が多く――。

 

視線を戻してぶっきらぼうに言った。

「興味ない」

 どうやらこいつは誤解しているらしい。

 確かに昔、欧州の歴史的建造物についての魅力を語ったことはあるが、オカルトや文芸に全く興味ない。

そう言うと「親父さんが建築家の影響だろ?」知ってるよと答える。

 正確には両親だ。親が両方とも建築関係の仕事をしているので知識やら技術が自然と身についた。

 しかし友人は、ゆっくりとかぶりを振った。

「この歴史的発見の昂奮を理解できないのは『無知の知』を得ていない証拠だよ。知らないことへの恥じらいはあっても、得得たることはあってはならない。知的探究心がないやつは、いくら時間が経とうとも結局馬鹿なままだよ」

 はぁ、さいで。知的探究心って言われてもな。

「画像もあるんだ見てみろよ」と画面をスクロールする友人を手で制止していた。

「なんだよ」

首を傾げる友人を前に俺は思わずぎょっとする。

 何をやっているんだ。

 ただその画像を見てはいけない気がした。

 見るなという忠告を軽んじてはいけないと思った。

 しかし根拠のない直感はすぐに薄れていった。

「なんだよ」と再度問う友人にごめんごめんと平謝りする。

 結局画像を見ても何か起きるわけではなかった。

 その後も「6億年前に近代的な文明が存在していたのか」「いや、だったらなぜ遺跡やら他の痕跡は発見されてないのか」などしきりに熱弁する友人。

 しばらく黙っていると、興味がないと表情に出ていたのか

「歴史的ターニングポイントだぞ」と捲し立ててきた。

 俺はもうめんどくさくなって苦笑して流した。

 歴史的転換点だろうと俺の人生の岐路は来年だよ。受験いやだな...。

帰路についた。

その最中、俺は何故か焦燥感に苛まれるような感覚に陥っていた。心臓の鼓動が速い。本能が何かを訴えているようだった。

 ……………なぜだろう。

焦っているのか。もっと言えば怯えているのか。

マイナスな感情が胸を抉る。

あの記事を見た時から。

あの画像を見た時から。

 気がつけば赤信号が照らす交差点をゆっくりと進んでいた。

甲高いクラクションの音が響き渡る。

 轢かれる直前。時間がゆっくりと流れた。

 走馬灯は流れてこない

 不意に前にも同じことが起こったような気がした。

 さっきまで抱いていた感情が頭を巡る。

 何も分からない。俺は何も分からない。

 それが凄く恐ろしく感じた。

 無知の知を得た。

 ただ怖い。たまらないくらいに。

 そうか、無知の知なんて知らない方がいいのか。

 酸素が廻らなくなってもなおその感情の廻り続けた。

 

世界に感謝

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